僕はここにいる

Now I'm here 57



 「あなたと最後まで御一緒できるのは私だったはずだ」

 「沙羅……」

 花珠が微かに震える声で呻く。

 「花珠さま、あなたは生きて残られるべき方だ。そしてあなたがこのまま亡くなれば 真珠さまも黒曜殿も永遠に救われませぬ。たとえ双児星の全人類が生き残ったとしても あなたの最も愛する者達を不幸にすることになる。 そう、あなたは、まだやらなくてはいけない事があるはず」

 無論、花珠とてそれなりの覚悟はできていた。 しかし、沙羅が現れて二人の覚悟を聞けば、自分は多少の力にはなれても場違いのように思われるのはなぜだろう。

 花珠は決意する。それなら、いっそこの場は寧ろ二人にまかせて花珠しかできぬ事をやればいいのだ。 しかしこれだけは聞いておかずにいられなかった。

 「では、お前はどうなのだ?お前達の卵はまだ孵化もしていない」

 いうまでもなく花珠にはまだ、決意しても僅かな迷いがあった。なぜなら男性機能を取り戻した沙羅もまた短い期間に強力な魔法を使える魔導師に成長しているのは、嫌という程感じられた。 いったい、この二人を失うことは『藍の大地』にとってどれほどの損失だろう。 しかし、二人を離ればなれにすることの残酷さも花珠は身を持って感じていた。

 「石榴の罪を償う為にもライラ殿とル−パス殿に我が子を預けていきましょう。」

 その一言を聞いて石榴は微かに微笑み、二人は幸せそうに瞳を交わす。

 「熱いことよ。石榴殿と同じ事をいう……」

 花珠もつられるように柔らかく笑った。それを聞いてもう決心は揺るがないものになっていた。

 「沙羅、本当にいいのか?」

 「はい……」

 石榴と沙羅の二人は力強く見つめあってから、頷いて目配せすると船の操縦席へと急いだ。そんな二人の背中に花珠は思わず声をかける。

 「石榴、忘れるな……決して!決して、諦めてはならぬ。無駄死にだけはさせぬよう私も真珠も瀧海もあらゆる藍の大地の魔導師達が援護する……だから必ず生きて帰るのだ。 地上から絶え間なくエナジーを送り続ける。だから私がここに戻るまで持ちこたえるのだぞ」

 花珠の悲痛な叫びにも、もはや二人は振り返る事なく静かに操舵室に消えていった。

 「教えてくれ!花珠、援護って魔導師ではない私達に何ができるのだ?」

 ライラが違う船に移動しながら不安そうに花珠をみつめる。花珠はその華やかな笑顔でそっと微笑み、そっとライラの肩にその掌をかざす。

 「ライラ、そなたにはどんな事でもできるはず。紅の人々を不安にさせないようにすることも、又、 交渉中の巨大星雲連合ともうまくやれば、石榴達の行動の隠れみのになることもできる。 お前が案じているルーパスの事は、きちんと真珠が守っているからあとでゆっくりと迎えにいくといい」

 花珠はその笑みを悪戯っぽいものに変化させる。どうやら、ライラとルーパスの事情は少なからず 知っているのだろう。ライラとルーパス。真珠と瀧海。そして沙羅と石榴でさえ幸せそうに 見える花珠だった。今までなるべく考えないようにしようとしていたが、黒曜の涼しげな切れ長の瞳が 頭から離れなかった。

 忘れたい、忘れよう、忘れなければ……いつもは『災い』の事を考えるだけで 黒曜を忘れられたのに、なぜか今日は後から後から絡み付くように黒曜の面影が浮かんでは消えた。

 「真珠様ですか?ルーパスが恋心を抱いていたからちょっと不安だな……」

 ライラにもジョークをいう余裕ができたようだ。

 花珠はなんとか自分が囚われそうになった黒曜の幻を潜在意識の中に深くしずめる事ができ、冷静になれた。そして、二人は自分達のするべき事をするためにそれぞれの持ち場へ散っていった。

 いよいよ『その時』は近付いていた。ライラの交渉はうまくいってるようで巨大星雲連合の目立った動きはないようだった。その間にも『災い』は静かにそして勢いを強めて二つの星に確実に向っていた。

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