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Now I'm here 56 |
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「どうした?私が憎いのだろう?」 小首をかしげながら石榴が一歩ライラに近付くとライラは逆に一歩退いた。潤んだ石榴の瞳にそのままライラは取込まれそうになる。しかし我にかえると石榴に迫力負けしてると思い、ライラは少しだけ頬を染めた。 「憎いなんてもんじゃない、殺してやりたい……」 だが、予想に反して石榴は感情のない顔でふっとライラから瞳を逸らす。 「お前が……そんな気にならぬのは当然だな……では、お前とルーパスに私の卵を残していこう……」 石榴の話をきいて一番驚いたのは花珠だった。慌てて石榴の方に振り返り訴えるように石榴をみつめた。 「卵?卵ってなんだ」 ライラは訳が解らず訝しそうにその瞳を眇める。 「知らないのか?我々は卵で子供を産むんだ。あの卵は私と沙羅の子だ。孵化すれば紫魔法も黒魔法も様々な魔法が使える素晴らしい子になるだろう……」 花珠がぐっと石榴の腕を掴んで自分の方に引き寄せる。 「愚かな事をいうな。自分が何を言ってるか解っているのか?あの子は沙羅の子でもあるんだ!」 「……それは確かにそうだ、だが沙羅にあの子がいるとアイツは二度と誰も娶らぬかもしれぬ。 そしてライラ達に犯した罪の深さを鑑みれば、私の最も大切なものを手放すしか真の謝罪にはならぬ」 石榴の静かな瞳に花珠の掴んでいた手は力を失ってぽろりと落ちた。すでに石榴は覚悟を決めているのだ。花珠も腹を括ったようにライラを見据えた。 「ライラ、私達は覚悟してきている。私達さえこの船を使い全力で魔法をかけるなら今なら、殆ど被害を出さずに『災い』を消し去る事ができる」 「石榴……」 そういったままライラは声にならなかった。 「私に何か手伝える事は……?」 ライラが消え入りそうな声で尋ねる。この双児星の運命はまさに美しく強大な魔力を持った二人の魔導師達に握られているのだとやっと気が付いたのだ。 ライラはなぜか何も話していないのに、災いと運命を共にする事を定めに生きてきた石榴の深い絶望がライラの中に流れ込むのを感じていた。そして石榴が沙羅と出会い子供を為した事でその運命を受け入れる覚悟をし、わが子を預ける事でライラとルーパスに自分のできる最高の償いをしていこうとしていることも……。 しかし、互いの気持ちを交わしあっている有余はもはや許されていない。 時間をかければ様々なものが彼等を邪魔しようと画策してくるのに違いないからだ。 ライラは歯を食いしばってそっと瞳を閉じた。 「この船を私達二人だけにしたら小さな船を一双残してできるだけ遠くに非難させるのだ。 紅と藍の長老達が騒ぐだろうが、ライラ……お前になら彼等を収める事ができるな?」 そこにばたばたと足音が入り乱れる音がして警備兵が駆け込んできた。 「何者かが船に侵入しました……」 その言葉も終わらぬうちに3人の前に現れたのはかなりの痛手を負った沙羅だった。 肩で息をし、口の端からは血が滲んでいた。魔法を使わずにここまで戦ってきたのだろう。そんな様子でぼろぼろになりながらも今までに見た事のないほど険しい顔で石榴を睨み付けた。 「石榴……話がちがう……」 「沙羅……」 石榴は冷静になろうとしていたが、動揺しているのは真っ白になった顔色からも明白だった。 |