僕はここにいる

Now I'm here 55



 石榴の卵の孵化は日一日と近付いてはいるものの、石榴の機嫌は悪くなる一方だった。

 「石榴……今は卵だけを心配してください」

 「そうもいかない。沙羅……お前に卵を頼む」

 まるで産み終わった後は卵になど関心はないと装う石榴に沙羅は苦笑しながらも愛おしそうに、卵を見つめていた。二人だけの時は驚く程素直な時もあるというのに、普段はまるで仮面をかぶったように 無表情になり感情を隠そうとする石榴……沙羅にすればそんな姿もどこか痛々しく愛おしかった。

 その時、突然、石榴の瞳の色が淡い水色に変化してゆく。あらぬ彼方を見つめているようで顔色は真っ白になる。

 驚いた沙羅が声をかけようと石榴に手を延ばした瞬間、花珠が二人の部屋に飛び込んできた。

 「ライラが軍隊を引き連れて我が国の上空にやってくるようだ。 今、彼等と対峙してる暇はないのだが……」

 「真珠殿にここはお願いしよう。沙羅、いざとなったらお前がライラに混乱魔法をかけるのだ。 できるだけ、パワーは使いたくないが、今は紅と藍とで内輪もめしている場合ではない。逆にライラが攻めてきた事は我等にとって船を奪い、早く『災い』に近付くチャンスかもしれぬ」

 「それに災いがさらにスピードを増して近付いてくる」

 花珠の顔色も怒りに真っ青でその瞳はらんらんと輝いていた。

 「いくか?」

 「いこう……」

 二人は小さく頷きあう。

 沙羅も卵の世話を侍女に任せて二人の後を追った。酷く胸騒ぎがする。

 あの二人は『災い』と運命を共にする気なのではないだろうか?

 そんな事はさせない。絶対に……。

 眩いばかりの光彩をまきちらしながら、ライラの巨大な戦艦が少しずつ降りてくる。空はその船団で 真っ黒に覆われていた。

 小さな高速船が、滑り込むように降りてきて、花珠と石榴を乗り込ませるように高圧的な態度で 使者が指示してきた。

 ふたりは、素直に使者の指示に従いその船に乗り込んだ。

 高速船には高圧的な若い使者の他に、中年の目つきの悪い男も乗っていた。

 「驚いたこれが噂の花珠と凶悪な石榴か?どっちもひ弱な女みたいなやつじゃないか……」

 そういって、花珠の顎をとった。

 「藍の大地には美人が多いって聞いていたが、どっちも見た事がない程の美人じゃないか。こんな綺麗なのは紅じゃ女でも見た事がない……」

 そのまま唇を奪おうとしたが、花珠はさも嫌そうに顔を背けた。

 「気が強いな……半分は女だが半分は男らしいからなぁ……」

 そういって舌舐めずりをせんばかりに近付いたが、その時大きなビープ音がした。舌打ちをしながら彼等は元の配置に戻る。

 「ライラ様が飽きたら、こっちにも回してもらうさ」そう悔しそうにいって、着陸体勢に入る。

 すぐに大きな母艦に高速船が収納されるとそこには、冷たい顔をしたライラが待っていた。

 「すでに藍の大地の長老達はこちらで拘束させていただいている。貴方達が素直に我等の指示に従うとは 予想していなかったが、さすが噂の花珠殿、賢明な判断だ。我等は『災い』をもたらす。巨大星雲国家と手を結んだ。今後は、『藍の大地』は『紅の大地』の統治下に入る」

 そして小さく微笑んでから口の端をかすかに持ち上げた。

 「お二人は美しい。なんと子供が産めるそうな……今後は我らが子を産んでいただくのもよいな」

 「ライラ……愚かな挑発はしない方がいい。私、ひとりでもこんな船を跡形もなく消し去ることは できる。そうでなければ供の者も連れず、敵陣に我等が二人だけで入ってくるわけがなかろう」

 花珠が言い含めるように諭す。その迫力にライラは思わず後ずさった。

 「それに巨大星雲国家と手を結ぶなどと愚かな事をしたのは事実ではあるまいな?ただ利用されるだけ だという事くらい察しがつくのだろう?」

 「確かにまだ、条約を結んだわけではない……」

 「当たり前だ。私が憎いなどいう私憤が許される程、甘い世界ではない」

 石榴がそう口を挟むとライラの顔は憎しみを現しながら赤黒く変化した。

 「それでお前が納得できるなら私がお前達にした事を今度はお前が私にするがいい……」

 ライラは呆気として石榴を見つめている。石榴の云わんとする事はわかっても、その背後に 何が潜んでいるのかを慮って片目を眇め斜に構えた。

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