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Now I'm here 52 |
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「お前には私の気持ちが解るのか?」 「いえ、はっきりとは解らない。ただ、瀧海の喜びや、悲しみ、怒り、後悔が色のような漠然とした形のようなものとして僕の心の中に入り込んでくるんだ。うまく説明出来ないけど」 「真珠、お前はそんなものよりも、俺の言葉を信じろ。そんな感覚があてになるなら、花珠殿と黒曜殿の間にあのような誤解がうまれるものか?」 「母上は……黒曜さまは、何を考えていらっしゃるのか僕には解らない」 真珠は瑠璃達弟皇子の立場を考えると安易に母上と呼ぶのも躊躇われた。 「自分でも解らないのかもしれないぞ。縺れた糸を解すのは簡単ではなさそうだ」 そこで二人は見つめあってふっと微笑んだ。 ついさっきまで、あんなに真珠の心も冷えきっていたのではなかったか? それが今では、家族の心配を二人でしているのだ。 安堵すると急に眠気が襲ってきた。 二人ともここ数日互いの事が心配で殆ど眠っていなかったのだ。 二人はソファにもたれかかると、互いによしかかるように深い眠りについた。 それから数週間、石榴と花珠は毎日、宙の間で作戦を練り上げ、慎重に詰めてゆく。 その間、真珠と瀧海、そして石榴と沙羅には熱く甘い時が訪れていた。 しかし、あの告白の日を境に花珠は2度と黒曜を寝室に入れようとはしなかった。 「待て、花珠!話があるのだ」 「忙しい。後にしてくれ」 「後にだって?近頃寝室に鍵がかかっているじゃないか。後っていつの事だ」 「災いが過ぎ去ったら、ゆっくり我等の今後を話し合おう」 「花珠、我等の今後ってなんだ?」 「今は忙しいといっておろうが!」 きっと睨み付ける花珠の腕を黒曜は捻り上げた。 「何をする……触るな、放せ」 「何を怒っている?」 「もう、2度とお前になど触れられたくもない」 「……っ!それはどういう意味だ?」 「その通りの意味だ。お前にはとことん愛想がつきた。今後はせいぜい瑠璃達や瑠璃国を大切にするがよかろう」 「な……っ!」 「災いが過ぎ去りここを離れればたとえ瑠璃達には会うことはあっても、もう2度とお前と会う事はないだろう」 「ここを離れるというのは本気か?」 「本気に決まっておろう、お前のあの真珠に対する仕打ち、皆の前だから お前にや真珠に恥をかかすような事は避けたが、はらわたが煮えくりかえったわ。真珠が許しても私は 許す事など到底できぬ。瑠璃国を守って美しい後釜でも何でも好きに捜すがよい。この国も私が産んだ皇子達もお前の好きにするがいい。だがもう、私とお前はなんの関係もないと思え。それだけ忘れるな」 黒曜は怒りを含んだ瞳で花珠の腕を捻り上げようとした。 「よせ、私をなめるなよ。黒曜!本気を出せば今の私はお前を指一本動かさず、髪の毛一筋まで無きものにすることも可能だ。だが一度は恋をし、子供まで為した仲。そこまでする気はない。残された子供達こそが哀れだからな。そのかわり2度と私の前に姿を現すな。もうお前を見るのも汚らわしい」 花珠はそう言い放つと黒曜の腕を乱暴に振り解き振り返りもせず、立ち去った。 その場には、失ったものの大きさに茫然自失とした黒曜だけが取り残されていた。 あのような激情に流された花珠を見たのは、黒曜が覚えている限り遥か昔に一度だけ黒曜を抱いた時だけだった。あの時でさえ、どこか花珠は暖かく愛に溢れていた。自分がそれを忘れてきたけれど。 いつも穏やかに優しく黒曜に微笑み、黒曜の我が侭を懐深い包容力で容認してきた 花珠の片鱗は微塵もそこには残っていなかった。 先程の花珠の黒曜を見つめる瞳は侮蔑を含み凍り付くほど冷たかった。それを思い出すだけで 黒曜は奈落の底に突き落とされた気がする。 いったいなぜ、自分は真珠を見るだけで苛つきわが子だというのにあれほど傷つけずにおけなかったのだろう? 黒曜はその場にへたり込んで前髪をかきあげる。 そんな自分が大嫌いだった。いっそ髪の毛一本まで花珠の力で消し去ってくれれば よほどすっきりするのだろうに。 |