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Now I'm here 49 |
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こんなにも激しく愛しあったというのに行為が終わった後の二人は言葉もなく長い静寂を持て余した。 どうしようもないほど、真珠の心は寒々と凍りつきその表情すらすっかり固まっていた。 真珠の心に瀧海の後悔の苦味が繋がった身体を通して入り込んできたからだ。 その瀧海の後悔が真珠を愛すればこそなどと、真珠が気が付くはずもない。 よりどころのない自分の出生よりも、瀧海の後悔の方が数倍も真珠を傷つけていた。 言葉にしなくても流れ込んでくる瀧海の後悔の苦さ……。 今日ほど真珠の心と身体を冷えさせた事はなかった。 どんなに瀧海が乱暴しても、そこには真珠に対する激情に近い愛情が渺渺と地平線の彼方まで溢れて真珠を暖かくさせたのに。 「真珠……」 髪にかかる瀧海の手をそっと払うと縋るような瞳で訴える。 「瀧海、少しだけ一人にさせてくれませんか?」 「何をいってるんだ」 瀧海はひどく狼狽した。どれほど後悔しようとも真珠には頼る者はじぶんしかいないはずだと 心のどこかで高を括っていたのだ。 「ど、どこに行くって言うんだ?こんな夜中に……。私も行くぞ」 「僕の兄弟達とも会って話したいのです。彼等は僕と同じで単体種男性体、つまり貴方のような方を 見た事がない。いきなりだと貴方にその気がなくても驚かせる事になります。 あとで必ず紹介しますから、先ずは僕独りで行かせて下さい」 そこまではっきり言われると瀧海としてもそれ以上言う事ができない。 他のものならいざ知らず、言ってるのは真珠本人だ。心の中で何かが警告音を発していたが 瀧海はあえてそれを無視した。 「すぐに戻れ、必ずな」 「はい……」 真珠は俯いて瀧海の姿を振り返らず部屋を出た。 紅の月が冷たく辺りを照らす。 肉眼で確認できる程になった『災い』も今の真珠には心を動かされる何ものもなかった。 夜露に濡れた花々が淡い光を放ち輝いている。 瀧海の後悔はいったいどこから来たのだろう?もう、真珠への愛情が冷めたのか? 思い起こせば、いつも言葉など必要はなかった。愛してるという言葉より、 瀧海の熱い抱擁や貪るようなキス、そして彼の身体から愛が流れ込んできたものだけを信じてきた。 真珠国にいた時は決して感じた事の無かった慈しみを教えてくれたのは瀧海だったから。 彼の厚い胸板にすべてを任せる時に感じた安堵と居心地の良さ。 二人の間に流れる時はすべて砂糖菓子のように甘かった。 それも口に含んで溶かしてしまうように 無くなってしまう物だったのだろうか? 真珠はそのまま、朝まで部屋に戻る事はなかった。 朝まで一睡も出来なかった瀧海はまず、沙羅に相談しようと決意してドアを叩く。 前もはだけて色っぽい沙羅が甘い吐息のままドアを開けた。 「瀧海さまにしてはなんと不粋な……」 からかうような沙羅に笑顔も向けず、瀧海は呻く。 「昨晩から出たまま、真珠が部屋に戻らない」 「え……?」 「独りにしてくれと言ったまま戻らないんだ……」 寝乱れた姿で石榴も顔を出す。 「なぜ昨日のあの状態の真珠を独りになぞしたのだ?」 「会いに行く兄弟達が私を怖がるからと……」 「まさかそれをそのまま鵜呑みにするほど、愚かな瀧海殿でもあるまい」 石榴のきつい一言に瀧海は悔しそうに唇を噛む。 「石榴、真珠様はどこにいる?」 沙羅が真剣な瞳で訪ねると暫し瞑っていた瞳を開いて、かすかに笑った。 「ここから南西の塔の中だ。あれが多分……」 そういって再び瞳を閉じる。透視しているのであろうか。 「瑠璃殿だ。瑠璃殿もなかなか麗しい方だな。真珠どのほどではないが」 それから、瀧海に向ってきつい笑みを向けた。その瞳は凍り付く程冷たい。 瀧海は固唾を飲んで石榴を縋るように見つめた。 |