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「そなたはすでにこの国の皇太子ではない。真珠国が存在していないのだから 当然のことだが、そなたは瑠璃国の姫として『春龍の滝』に差し上げたモノだ。 どうやら、この瑠璃国と『春龍の滝』との鎹を作り役目はきちんと果たしたようだがな」 追い込むように冷たい言葉を投げかける黒曜にますます倒れそうになった、真珠の身体を瀧海は包むようにがっちりと差さえ込む。 「真珠は充分に傷付いているんだ。これ以上私の真珠を傷つけるような事をいうならこの俺が許さんぞ」 そういって瀧海は一気に気色ばんだ。 「ちがう、違うんだちょっと驚いただけで……」 真珠は不安そうに瞳を左右に泳がせる。 「今さら何を綺麗事をいうのか?真珠は最初から瀧海のところに嫁がせるつもりだった。それは瀧海が一番よく知ってるのではないか」 黒曜はきつい目をしたまま、片頬で微笑む。 「黒曜、もうそれ以上言うな。真珠、私の話も聞いてくれるか?私は自分が腹を痛めたどの子よりお前が愛おしい。お前を皇太子にしておきながらこんな結末になったのは、すべて私の責任だ。許しておくれ」 真珠はただ首を振るばかりだ。小さく震える真珠の肩を瀧海がどこかおどおどと自信なさげに抱き締める。 「私はこの『災い』に長い時と命をかけてきた。もちろん、今もだが、これが私の使命だと信じているからだ。しかし反面愛する者に産ませた唯一のお前すらを守ってゆけなかった自分の力不足を今日ほど恨めしく感じた事はない」 「あぁ父上、嘆かないで下さい。父上は誤解されているようだが瀧海と出会って、僕は幸せだ。皇子とし育てられた事も決して後悔していない。 瀧海はあるがままの僕を、有り体にいえば、男である僕を愛してくれると思うから」 あたりがしーんと静まり返っている。 黒曜は面白く無さそうな顔で部屋を出ていった。 「真珠、どうか黒曜を許してやっておくれ。お前が憎いのではない。自分の気持ちを持て余しているだけで、すべて私の浅はかさがいけなかったのだ。私が身を黒曜にまかせ、国を譲れば黒曜は気が済むだろうと 思ったのは間違いだった。『災い』の事と黒曜の事で私は精一杯で、お前に悲しい思いをさせ、いままで何の説明もしてやれなかった事、すべて申し訳なく思う。しかし、そうはいっても今は『災い』をまずどうするかが最優先であることに変わりはない。藍の大地が残り私の命が長らえる事ができるなら、必ず最初にお前に罪を償うと約束しよう」 「何をおっしゃいますやら、父上に償っていただく罪などございませぬ」 真珠はけなげに父を見上げた。 「おっしゃる通り、今は『災い』の事が一番大切です。私の方こそ、父上や母上の慈しみを疑うような愚かな事を申し上げました。どうかお許しを」 気丈に振る舞う真珠を心配そうに瀧海は見つめていた。 真珠は大丈夫というように瀧海に小さく頷く。瀧海もそのまま前をみたまま、真珠の 細い腕を安心させようというようにがっちりと掴んだ。真珠は自分の腕を掴んだその手に重ねるように そっと自らの手を重ねてくる。 そして瀧海にだけ聞こえる微かな声で囁く。 「瀧海、あなたがここにいてくださって本当に感謝しています。 僕ひとりだったら、きっと自分の存在価値を見失いこうして立っているどころか、きっと自らの存在そのもの を消し去りたいと思うほど追い詰められたに違いないから」 「真珠……」 どれほど真珠が傷付いているか瀧海はその温もりのまま伝わってくる。 そして自分がその罪に加担していた事を思うと胸を鷲掴みにされそのまま心臓を引きずりだされるような痛みを感じた。そして不安になる。このまま真珠を自分のものとして扱うことなど自分には許されるのだろうか? |
