僕はここにいる

Now I'm here 46



 さっそく瀧海、真珠、沙羅、石榴、ルーパスの5人は真珠国、(今は瑠璃国になっていたが)に旅立った。

 お忍びであることと竜を使った旅なのでお供の者は殆どつかなかった。 なまじっかな従者など連れない方が邪魔にはならない。花珠が住む花珠専用の離れの宮殿に 竜で降りようとした時、何度も廻りを不審そうに多くの竜が飛び回っていた。

 真珠の姿をみてやっと姿を消した彼等を確認してから、ゆっくりと3匹の竜は花珠の小さな宮殿に降り立った。

 よく手入れされた庭に小花が色とりどりに咲き乱れ、小川から洩れる心地よい水音が訪れる者を和ませる。 決して廻りを威圧する豪華さや荘厳さはないが、花珠の人柄の知れる花園だった。

 現れた花珠を見て真珠以外の者は息を飲んだ。真珠と瓜二つであったがその上、真珠にはない 落着きと威厳があった。

 「よくいらっしゃいました。お待ちしておりました。真珠、元気そうだな」

 真珠の手をとってそっと口付ける。

 そしてその花珠の瞳は石榴を捕えた。 お互いにするどい視線で睨み合うように見つめていたが、そっと視線を外したのは石榴の方だった。

 「石榴と申します。今まで生意気を申しまして」

 それは石榴と花珠とで交信していた事をさしているのであろう。 花珠の表情がすっと和らぐ。

 「なかなか美しい方だ。あなたがあの石榴殿とは俄に信じ難いが……」

 そういってから、近くの小姓に「駕篭をお持ちしろ」と命じた。

 「大切な身体だ。無理は禁物だな……」

 そういって花珠に駕篭と呼ばれた美しい車椅子を促されて石榴は怪訝そうな顔をする。 すっと沙羅が近付くと石榴の肩を優しく導いて車椅子に座らせた。

 「ほう、そなたが父上になられるのか?」

 花珠は全てを知っていると謂わんばかりに意味深に微笑むと

 「なるほど役者が揃ったというわけだな」

 そういってさらに奥の部屋に皆を案内した。

 そこは大きな半円のドームになっており 天体が刻々と変化しながらリアルタイムに写し出されている。

 「あれが『災い』だ」

 そういって向ってくる巨大なすい星を指し示した。

 「『災い』の事はみなも話は聞き及んでおろう。多分、あの『災い』は9割近くの可能性として 人工的なものだろう」

 「なんだって?」

 一様に皆が驚いて声を張り上げた。

 「なぜなら紅の大地の送った船で紅にぶつからぬよう軌道修正したはずが、再び元に戻っているのだ」

 「それは本当か?」

 「嘘を言ってなんの得がある。我々の間で争っている余裕はない。紅とも力を合わせ、それぞれの魔導師が手を繋がなければ、 我々は滅ぼされるか、奴隷にされてしまうだろう」

 それぞれが不安そうに顔を見合わせた。

 「沙羅、お前は紫魔法が使えるな。瀧海、お前は黒魔法が使えただろう。 石榴は青魔法か?私と真珠が白魔法を使い、ルーパスは雪野を連れて紅の長老を説得するのだ。 時間は限られているが、必ず明日への道はある」

 真珠は父上がこのように威厳をもって力強く話したのを始めて聞いた。 いつも、疲れているようで今にも倒れてしまいそうなほど儚げな印象しかなかった。

 「父上、その前にひとつだけ教えてください。なぜ、僕は母上に疎まれているのですか?」

 花珠に会ったらこれだけは聞いておきたかった。今までうやむやにしてきた事が お互いの深い誤解を招いていたのだと気がついたからだ。 花珠は小さくため息をついてから、覚悟を決めたように真珠の瞳をしっかりと見据えた。

 「真珠、もちろんお前は確かに私と黒曜の子だ。あの日私はまだ、幼かった。 黒曜を諦めるくらいなら無理に自分のモノにしてしまおうと浅はかな事を考えたのだ」

 「聞き及んでおります」真珠は小さく俯いた。

 「ここからが大事だ。私は確かにお前の父だが、瑠璃達、お前の弟皇子の父ではない」

 「それはどう言う意味ですか?」

 そこに突然黒曜が現れた。花珠よりも一回り大きくさらに威厳がある。花珠の腰をぐっと自分の方に 引き寄せるとその首筋に口付けた。冷たいアルカイックスマイルを浮かべたその顔は美しいというよりも見るものを圧倒する迫力に溢れていた。

 「残りの皇子達は皆、花珠が産んだのだ。もちろん、父親は私だ。瑠璃が皇太子になったいま、 真珠国はなくなり、ここが瑠璃国となったのだ」

 真珠は後ずさりして腰を抜かしてしまいそうになった。

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