僕はここにいる 4

Now I'm here 4



今まで、瀧海とこの元服式で出会わなかったのは、今年元服するからだろうか?
少なくても、自分を含めて他の皇子達より2,3歳は年上に見えたのは背丈のせいだろうか?
それにしても大きい。
それにあの肩幅の広さはなんだ。
「別の生き物とは言わないが、明らかに我等とは違う....災いの種にならねばよいが」
真珠丸はひとりごちた。
そして彼は瀧海と名乗ったが瀧海丸とはいわなかった事を急に思いだす
皇子達は元服するまで名前に厠の幼児語である丸を名前に付ける事によって厄が払われると信じられていた。
身分の低いものならばともかく、皇太子でありながら、もし元服していないのに丸を付けていないと言うと事は、いろいろな意味で風習に逆らっていると言う事だ。
真珠丸はあまりに深く己の世界に入り込んでいた為、自分が人気のない廊下に立っていた事に気がつかなかった。
突然、物陰から腕を掴まれると信じられない程強い力でぐっと引き寄せられ、顎をつかまれ乱暴に上を向かされる。
瀧海の顔がすぐ、そこにあると思ったとたん、唇を重ねられた。
「失敬な。放せ」
真珠丸はそういったつもりだったが、声は瀧海の口の中に消え必死にもがくが瀧海の腕はぴくりとも動かない。
それどころか腕に力がこもると真珠丸の腕の骨がきしきしと鳴る。
瀧海の舌が真珠丸の口内を暴れまわる。顎を強く掴まれているので真珠丸は瀧海の舌を噛み切るどころか 口を閉じる事すら叶わない。
あまりの力の差に絶望しなぜか、身体の奥底から沸き上がる初めて体験する 甘酸っぱいような欲望の行き先を知らないまま濁流に飲み込まれた木の葉のように瀧海のされるがままになっていた。
瀧海はさんざん真珠丸の唇を貪った後、腰の抜けかかった真珠丸を乱暴にその場に降ろした。
「真珠丸、口付けははじめてか?俺がたっぷりと仕込んでやるぞ。」
瀧海は片頬で微かに微笑んでから、音もなく立ち去った。
怒りの余り、真珠丸は言葉もない。
こんな屈辱も初めてだったが、気配も解らぬ程惚けていた自分にもっと腹が立った。
なんて奴だ。
それにしてもなぜ、瀧海の気配を感じなかったのか?
佐津姫に予め男性単体の事を聞いていたのに出会う前に何も本格的に対策を立てなかった自分が恨めしい。
父王は病弱で殆ど力にならず、母の皇后と自分は皇太子の地位を争って冷たい関係だ。
いったい誰に相談すれば良いと言うのか?
母がなぜ自分を皇太子として認めたがらないのか良く解らない。
自分の気の強さは母そっくりで、間違いなく母の子である自分をなぜ、こんなに疎まなければならないのか?
それは現実に認めるのがあまりにも辛い真珠丸の一番の悩みであった。
しかし、そんなことよりこの『藍の大地』の存続がかかっている今は、それも小さな悩みに思える。
佐津姫の言っていたように、『暗黒の氷山』に男性単体がまとまって住んでいるとしたら、そして、彼等が 瀧海のような者たちなら、佐津姫達のような女性単体がまともに戦える訳がない。
もう、数千年も満足に戦などしていないのだ。
それを思うと真珠丸は暗黒の深淵に突き落とされたような絶望感に襲われる。
「やはり父上に相談しなければ」
そう思って立上がろうとしたまさにその時、真珠丸はかすかに瀧海の気配を背後に感じて恐怖のあまり すくい上がるのを感じていた。

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