僕はここにいる

Now I'm here 37



 足音は部屋の前で止まった。多分石榴だろうと沙羅はあたりをつけ、ゆらりと起き上がる。 息をひそめてドアの影に隠れた。

 ドアが微かに開き、用心深く入ってきた石榴と沙羅の瞳があった。 石榴は飛び上がるようにびくっとすると沙羅は余裕で俯きながらゆっくり瞳を閉じてから 再び瞳をあげて石榴を見上げる。

 「お早い御訪問ですね。何かお話ですか?」

 「おい、そんなところに立って脅かすつもりか?」

 「いいえ、足音が聞こえたので用心しただけです。僭越ですが私と二人で少しお話できますか?」

 「もう、お前になど興味はない」

 石榴はぷいと横を向いた。

 「お前にはもう飽きた。真珠に用がある。まだまだ、経験不足そうだからな」

 そういう石榴のイジワルそうな笑みに沙羅の胸はなぜかちりちりと痛んだ。

 「石榴様、私があなたに協力をするといったら?」

 石榴が驚いて振り返る。その瞳は不安そうに揺らめいた。

 「あんなに協力を拒んでいたのに今さらそんな事を言い出すのはどういう風の吹き回しかな?」

 沙羅は耳許で囁いた。

 「石榴様の御寵愛をお受けしたいのです」

 「な、なにをいう。ふざけるな。ばかな事をいいだすと酷い目にあわせるぞ」

 「酷い目?合わせていただきましょう。もはやこれ以上の酷い目など死以外ありません」

 それは昔、石榴に沙羅の男性自身を切り落とされた事を指していた。

 「経験なら私の方が不足しています。知っているのは貴方様だけ、そして一度 覚えた欲望はもう、すでに私の中に息づき忘れられませぬ」

 「は、初めてだったなんて嘘だろう?お前の方から誘ったじゃ無いか」

 「貴方様になら何をされてもいいと思ったからです」

 石榴は瞳をいっぱいに見開くと吐き捨てるように叫んだ。

 「戯言を!」

 「石榴様、お静かに……」

 そういって沙羅は押し出すように石榴を部屋から追い立てた。 真珠とルーパスがもぞもぞと動いている。さすがに目が覚めたのだろう。

 「ルーパスとも楽しまれたのでしょう?私に伝授していただけないのですか?」

 「誰をどうするかは私が決める事だ。お前では無い」

 そういいつつも結局、沙羅と石榴は石榴の部屋に入ってそっと口付けを交わす。

 「本当の目的はなんだ。沙羅」

 名残惜しそうに沙羅から離れるとキャビネットからブランディーを取り出した。

 「朝から飲まれるのですか?」

 グラスのひとつを沙羅に差し出しながら一気にブランディーを呷った。

 「飲まなければやってられない」

 沙羅はじっとグラスを見つめながら呟く。

 「孤独だから?」

 「ほっとけよ」

 「真珠やルーパスを傷つけても貴方の孤独は癒されません」

 「うるさい」

 「あなたは解っていらっしゃる……側近のいうなりになって、残酷な事を続ける空しさを」

 「黙れ、殺すぞ」

 「半分、殺されたようなものだ。もう亡骸同然の私です。あなたのお好きにすればいい」

 「私がそんな言葉で動揺すると思っているのか?」

 「私はそんな事は何もいっておりませぬ、ただ、滅びに向っているこの世界を虚しんでいるだけです」

 石榴の表情が恐怖に凍り付く。

 「お前は何者だ。お前は本当は何を欲しているのだ?」

 「他には何も望んでおりませぬ石榴様、貴方にこの不完全な躯を愛しんでいただきたいだけ。貴方だけだ、私を愛おしむ事ができるのは」

 「お前は天使のような顔をした悪魔だ。残酷な事をいう」

 「石榴様……」

 「寄るな、これ以上……私を惑わすな……お前など大嫌いだ」

 「存じております。嫌いで構いませぬ。貴方に躯だけでも愛おしんで頂けませんか、心などと大層な事など滅相もございませぬ」

 「よせ、寄るな」静かに感情のない顔で近付く沙羅に石榴は恐怖の表情を顔に張り付けたまま、後ずさった。

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