僕はここにいる

Now I'm here 34



 「花珠、まて。どうしてそんなに怒っているのだ?」

 「そりゃあ、そうでしょう?いくら黒曜さまが年上で私より身長があるからといって どうして私が黒曜様のところに輿入れしなければいけないのですか?」

 黒曜はまるで子供に言い聞かせるように頭に手をやった。

 「誰が考えてもそれが自然ではないか?花珠も私を慕ってくれているのであろう? なぜ、そんなにごねるのだ?」

 花珠は思いきりその手を振り解く

 「あなたは、そのようにしか私を見ていないのか?当分話し掛けるな」

 花珠の華やかな顔が怒ると壮絶に美しい。 そんな事を呑気に考える黒曜を睨み付けると花珠はそれから暫く黒曜と会おうともしなかった。

 そんな二人の行き違いを喜んでいる者がいた。『春龍の滝』の皇太子で焔(ほむら)という。 彼こそが瀧海の父だ。

 焔は花珠に片思いしていたので、ふたりの喧嘩は彼にとってチャンスだった。

 「花珠殿、最近元気がありませんね。黒曜殿と熱い時を過ごしておられると思っていたのですが?」

 「僕らには、最初から縁がなかったのです。お互いに皇太子同志后を取る立場で 恋愛しても不毛というもの。しかも黒曜様は年上であるというだけで自分が 僕を后にできると信じて疑いませぬ。話し合うつもりもない」

 焔は苦笑した。たとえ自分の立場であっても花珠が后を娶るようには思われない。 勿論、自分としても花珠を后に欲しいと思っていたのだ。

 「このままでは花珠さまにチャンスはありませぬ。ひとつだけ方法がないわけでもない」

 それは黒曜に一服盛って既成事実を作ってしまうという半分冗談のようなものだった。 花珠がこれに乗るととても思えなかったのだが、若さ故の暴挙に花珠は出てしまう。

 久しぶりに花珠に誘われて機嫌よく次々と勧められるままに盃を傾けた黒曜が 意識を取り戻したのは、全裸にされ天蓋の付いた豪華なベッドに縛られた状態だった。 黒曜はそれでもまだ、自分の状況をつかめていない。そして近くにいた花珠に声をかけた。

 「花珠、いいところに来た。早く解いてくれ」

 花珠はまるでロボットのような感情のこもらない瞳で黒曜の台詞を聞いていた。

 「花珠……」

 ゆっくりと黒曜の上にのしかかる。

 「どうした、か……花珠」

 ゆっくりと黒曜の唇の上に自分の唇を落とす。

 「まて、まず縄を……あっ」

 媚薬も飲まされていた黒曜は抵抗らしい抵抗もできずに花珠とひとつになった。 それから4週目の夏の熱い日、黒曜は花珠の皇子のちの真珠になる卵を産み落とした。 二人は婚姻関係を結び黒曜は真珠国に嫁いだ。そして他に子供のなかった瑠璃国は 真珠国に必然的に併合されてゆく。

 致し方ない事とは言え黒曜はそれから一度も真珠を抱くことはなかった。

 しかしながら不思議な事に二人は表向き冷たい夫婦関係と言われたにもかかわらず、真珠の他にも 2人の皇子を授かり、いまだに夫婦関係を続けているのだ

 そこまで沙羅の話を聞いて真珠はたまらずに口を挟んだ。

 「なぜ、沙羅はそのような私もしらないような真珠国の内情を御存じなのです?」

 「私にその能力があるからです。だからこそ私は狙われている。そして男である事を 禁じられたのです」

 「母上と父上の話が本当なら、それはまるで私と瀧海の間に起こった事に信じられないほど 良く似ている。母上はその事をいまだに恨みに思っておられたのですね?」

 傷付く真珠の心にルーパスは優しく語りかけた。

 「同じではないだろう?真珠は瀧海も翡翠も充分に愛してるじゃないか」

 その一言を聞くと真珠は一雫の泪を流してルーパスに優しく微笑み返した。 それをみて沙羅は安心したように再び話だした。

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