皆が感じている程、真珠丸は自分が話しかけずらいタイプなどと知るよしもない。
それでも、二言三言交わされる会話に元来無口な真珠丸は充分に満足していた。
今年は自分が元服するのだから、近々后になる皇子を選ばなければならないのだが
特に心惹かれる者が居ないのは自分が幼いからだと信じて疑いもしなかった。
宴の間、静かに交わされ心地よい音楽のような会話が急に騒々しいざわめきに変化する。
そんな異常な雰囲気を察して真珠丸がその辺りを見遣った。
そこには明らかに他の皇子と様子の違う青年が入ってくるところだった。
彼は各国の皇子より頭一つ分身長が高く、肩幅が見た事もない程広かった。
しっとりと濡れたような長い黒髪。切れ長の鋭い瞳。線の細い他の皇子達とは一目で違って見える。
異形の者とは言えなかったが明らかに皆と違う趣があった。
徐に真珠丸と彼の視線が重なりあい、二人は暫く時が止まったようにみつめあう。
『もしかしたら、この者が佐津姫のいっていた皇太子なのでは?』
真珠丸はそう思うと彼から眼を離せなくなっていた。
『危険だ。彼から眼を離さなければ』理性はそう囁いたが、野生の猛禽類が獲物を
獲得するまさにその目で真珠丸をみつめられ、すでに目を逸らすとこなど不可能だった。
そんな真珠丸を追い詰めるように見据えたまま彼は近付いてきた。
「これは美しい。どちらの皇子様でしょう?
私は辺境の地『春龍の滝』の皇太子『瀧海(タキミ)』と申します。
お見知りおきを。」 そういうと跪いて真珠丸の手を取り、そっと口づけた。
それは求婚のしるしであった。
近くにいたものから周りにさざ波のように動揺が拡がっていく。
それはまわりの者を驚かさずにいられない程の不作法であった。
なぜなら、前髪を降ろさずにそのまま結い上げている皇太子の証をもつ真珠丸に
求婚するなど今までの前例では考えられなかったからだ。
元服式が終われば、儀式により完全な男性単体の皇太子となる。
皇太子達は嫁をとる立場であったからだ。
「これはお初にお目にかかります瀧海様、わたくしは『藍の大地の真珠』の皇太子真珠丸です」
真珠丸は皇太子という部分を特に強調して答えた。
「今まで、瀧海様は他国とのあまり交流がございませんでしたね」
先程の不作法を揶揄して真珠丸は目を眇めた。
「御希望であれば、我が国の皇子達を御紹介いたしましょう」
真珠丸は瀧海についてくるように目配せした。
それを知らなかったのか、知って敢えて無視したのか、瀧海は
「せっかくのお誘いながら、又の機会に」 と言い放つとさっさと他の皇子達の中へ紛れ込んでいく。
残された真珠丸は気がつくと緊張のあまり脂汗が滲んでいるのに気がついた。
瀧海に圧倒されていたのだろう。 同じ皇太子として腹立たしさより憧れのような
不思議な想いが芽生えている自分の心が不思議でならなかった。
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