僕はここにいる

Now I'm here 28



 長老達や、紅の大地からの使者がやってくる前に、真珠はどうしても翡翠に会っておきたかった。 瀧海の愛を思う存分に受けたおかげで真珠のエナジーは満ち足りていた。

 子供部屋に入るなり 部屋の空気が暖かいものに変わっていく。 翡翠のキラキラした瞳が真珠には眩しい。 壊れ物でも抱くようにそっと抱き上げると「あ……あ……」と翡翠は長い睫を揺らしながら何かをしきりに訴えている。さくらんぼのような唇が愛らしく、真珠はその柔らかな頬にそっと口付けた。

 本当に大きくなった。この子と再び別れなければならないのは辛いが、真珠はもう、行く決心を変える事はなかった。

 僅かづつ、本当に僅かづつエナジーを翡翠に流し込んでいく。 翡翠の頬が桃色に染まり、笑顔がこぼれた。「……まんま……ま」 自分の事を呼び掛けているのだろうか?

 部屋いっぱいに金色の軌跡とダイヤモンドダストのようなキラキラしたものが 拡がり、真珠の躯の中を喜びのエナジーが駆けていく。 こんな幼い子を置いてゆくのは辛い。しかし、自分しか行くものはいないのだ。

 断ち切るように翡翠の部屋を出るとそこには瀧海が立って待っていた。 真珠の瞳が熱い涙で溢れそうになっている。 瀧海が自分をどのように思ってくれるのかは解らない。 でも涙を拭う瀧海の指先が暖かくて真珠はそっと瀧海の胸の中に 身体を預けそっと呟いた。

「いくよ」

「あぁ、何があっても最後まで諦めるな。必ず俺がなんとかするから」

「翡翠を頼む」

 なかなか来ない真珠にしびれをきらして近くに長老達が迎えに来たのがわかった。 長老達が近くにやってきたにも関わらず、二人は熱くキスをはじめる。 それは長く激しいキスで長老達の度重なるせき払いでやっと終わりを告げた。 「さぁ、時間が無い」と長老達に無理に放されてからも真珠と瀧海は熱く語り合うように瞳と瞳を交わしていた。 二人ともなぜか、長い別れになるような予感があったから。

 真珠は何時にも増して美しく着飾らされ、それは見るものに人身御供のような 印象を与えて、ますますの涙を誘う。

 しかし、真珠と瀧海はお互いに見つめあうだけで涙を流す事はなかった。 瀧海がゆっくりとうなずくと、真珠はそっと眼を伏せる。 二人はもう、一言も交わさずゆっくりと真珠と3人の長老達は紅の銀色の船に乗り込んだ。

 船の中はライラ達のそれよりずっと大きく、内装も豪華だった。 それはどこか宮殿の中を思わせ、何人もの人々が接待として働いているようだった。 特別に美しいとも感じなかったが、不快に感じる容姿の持ち主は一人もいない。 それはまるで人形のようだと真珠は感じた。

 最初に案内された奥の部屋には長い机と10席あまりの重厚な椅子が置いてあり、 どこか見るものを圧倒させるように鎮座している。 長老達に対峙して3人の紅の者達が向かい合って席に座った。

 末席に座った真珠はその中の一人に眼が離せなくなる。 その紅人(くれないびと)は黒く長い髪を後ろで束ねて色の白い、どうみても自分と年令が違わないような 少年だった。しかも、肩幅も無く瀧海よりも華奢な感じがした。何よりその冷たい切れ長の瞳を見たとたん、真珠は凍りつく思いがした。妖艶な感じがあきらかに他の紅人とは違い、もちろん、藍の大地にも見た事の ないタイプだったからだ。

 突然、がた、がたっと大きな音がしたと思うと大きな衝撃が走り、長老も真珠も壁に激突していた。 何が起きたのか解らなかったが、混乱に乗じて先程の少年のような紅人がこの揺れの中 ゆっくりと真珠に近付いてきていた。

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