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その頃『春龍の滝』の城はまるで戦でも始まったような大騒ぎだった。 「真珠さまが攫われた」 「大きな銀色の鷲が連れ去ったらしい」 「真珠様は御自分で逃げられたといっている者もいるぞ」 城の人々の戸惑いとは別に瀧海はすでに目星をつけていた。 瀧海の部屋の前に巨大な影ができる。 「瀧海さま」 「雪野来たか、真珠の事だが……」 「あぁ、真珠様を乗せていったのは間違いなく俺の祖国の紅の大地の船ですよ。簡単に星間を行き来できる最新型でしょう。 真珠様は綺麗だから『紅の大地』に連れていったら引っ張りだこでしょうね」 「連れていかれたと思うか?」 「知りませんよ。どうしてそんなに真珠さまが大事なら部屋に閉じ込めておかないんですか? 真珠様はいくらでも白魔法が使える。逃げようと思ったら余程の頑丈な檻にでも監禁しないと あっという間に逃げてしまうのは解っていたでしょう?」 「逃げたのではない。連れていかれたのだ」 必死の形相の瀧海に雪野はこれ以上苛めては、瀧海がまじ切れしてしまうとにやにやするばかりだ。 間違いない、瀧海はやりすぎたのだ。 瀧海は嫉妬のあまり真珠が慕っている綺羅を側室にしようとした。 綺羅もそれを望んでいたのだろう、しかし真珠に見せつけたのはやりすぎだった。 真珠が真珠国に帰っただけなら、心配はなかった。しかし『紅の大地』に連れていかれたのだとしたら、話は全く変わってくる。 そう思うととんでもないことになったと瀧海は心が押しつぶされそうだった。 真珠が瀧海の妃だという事や瀧海の子を産んだ事など彼等にしたらどうでもいいことだろう。 雪野の話だと真珠国にいた衛兵の佐津姫(さつき)ですら『紅の大地』では絶世の美女扱いらしいのだ。 『紅の大地』に真珠が攫われたりしたら、野獣のような男達の視線だけで殺されてしまうかもしれない。 実は瀧海は『藍の大地』の中では間違いなく1、2を争うほどの『紅の大地』の情報通だった。 大きな銀の船が壊れて中にいた雪野が倒れてきた時、彼を捕らえずに家来にしたのも 『紅の大地』の情報を掴む為だったと断言できる。 そんな瀧海ですら、『紅の大地』の事は殆ど知らないのだ。 そこはまるで伝説と魔法と美しい自然だけで栄えてきた『藍の大地』とは対照的な星だとは知っていた。 産業と科学が発達しているが荒涼とした星だときいている。 人々も雪野の様な大柄でごついタイプが多いようだ。 どれほど真珠は心細い思いをしているだろう。 「真珠……」 後悔してもしきれない。やっと手に入れた大切な小鳥だったのに。 飛び立ってしまってはもう、二度とこの手に抱く事ができないかもしれない。 つまらない嫉妬をしてかけがいのない宝を自ら手放すようなまねをした愚かな自分が情けない。 だが真珠がからむとなぜか瀧海は自分を制御できないほど狼狽えてしまう。 瀧海は最後の夜に真珠を抱いた時に見せた瞳を思い出していた。快楽に流されて融けていくようになる真珠の熱のこもった淫らな瞳。あの瞳を見つめるのは自分だけだったはずなのに……。 そうだ、真珠との間にできた皇子。あの子さえいれば真珠は必ず戻ってくる。 そう信じて瀧海はやっと気持ちを持ち直し、城下の者たちもあつめててきぱきと指示をはじめた。
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