宮殿の奥から護衛兵が音もなく真珠丸に付き従う。
護衛兵の姿は逞しいがすべてが女性単体で構成されている。
多くの武道と兵器の扱いに慣れた力丈夫達だ。
その中でも彼女はもっとも目を惹くほどの美丈夫だった。
「皇太子様」
「これは佐津姫ではないか。どうした」
佐津姫と呼ばれた護衛兵は少し頬を染めて頷いた。
「お部屋でお話ができますか?少し情報があるのです」
「情報?よい話ではあるまい」
自室の部屋に鍵を掛けながら、真珠丸が呟く。
「だが、聞かねばならぬ」
「あくまで噂ではございますが、この度の元服式にご主席なさる皇太子さまの
中のお一人が男性単体のお生まれだとか」
真珠丸は肩ごしに振り返ると睨むように佐津姫の瞳をみつめる。
「まことか?それは伝説の中だけに存在するものと思っていたが....。」
「その上、もっと恐ろしい話もございます」
「なんだ、勿体ぶらずにすぐに話せ」
「噂の『暗黒の氷山』に住んでいる怪物というのは、街でなんらかの異変で生まれた男性単体達
が親達に疎まれて捨てられた成れの果てだというのでございます」
真珠丸は額を掴んで唸った。
「信じられん。だが、噂をこれ以上広めないように何か手立てを打たねばなるまい。
国民達が混乱し、恐ろしい事になる」
佐津姫は下唇にそっと折った人指し指を添えて泣き出しそうな瞳で真珠丸を見つめた。
「大丈夫、お前だけが背負う事ではない。」
「しかし、伝説通りなら生まれながらの男性単体は世にも恐ろしい形相で力も身体も我等の3倍とか。
そのような怪物に、どのように対抗すればよろしいのでしょう?元服式に暴れだしでもしたら」
「心配しすぎだよ、佐津姫。そのような異形の者なら、もっと以前に噂にのぼってもおかしくない。」
皇太子は余裕の笑みを浮かべていたが、佐津姫は不安そうに俯いたままだった。
この時もっと真剣になって早く手をうっていればと
のちのち佐津姫と共に後悔することになろうとは、真珠丸は思いもしなかった。
元服式は毎回『藍の大地』の中でも最も大きな公国『萌黄の沼』で行なわれる。 その沼の中に立つ
宮殿、『薄羽殿』は美しさといい、巨大さといい、他の宮殿の追随を許さぬ見事なものであった。
宮殿の中の宮殿と呼ばれるそれは、外から観ると玉虫色に輝き、中から観ると虹
色に輝いていて、螺旋を巻く天井が天に向かう様は、まるで巨大な巻貝のようだ。
殆どの者達をも圧倒する薄羽殿ではあったが、真珠丸はここにくるとなぜか落ち着く感じがした。
病弱で美しい父と気が強く厳しい母のいる自国では気が休まる事もなかったが、年に一度の同年代の
皇太子たちとの交流をそれはそれは楽しみにしていたのだ。
各国の皇太子達を始め皇子達はどの者も花や宝石のように美しく着飾り、その衣装に負けない程
容姿も光り輝いていた。
未分化の性を持つ彼等ではあったが、どこか男性的な者女性的な者それぞれ魅力に溢れ、花園で
花々が競い合うように美しく咲き誇っていた。
その中でも真珠丸はいつも注目の的であった。
美しさの他に気品と知性を兼ね備えており、その上どこか他者を寄せつけないような
高貴なオーラを身に付けているので各国の皇太子や皇子達は遠巻きに眺めて様子を伺っていたのであった。
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