翌日、雪野という巨体の男に抱きかかえられるようにして、真珠丸は宮殿へやってきた。
辺境ではあるが、驚く程荘厳で美しい宮殿だった。
ガラスが多用されているのが真珠丸には眩しい。
洞窟の中にも人工的な光はあったのだが、太陽を見るのは1ヶ月ぶりくらいだったので
真珠丸はただ、雪野の胸元に顔を寄せていた。
久々にみる光は真珠丸を疲れさせた。 だが、白魔法のマジックパワー(MP)が満ちてくるのが
解り、部屋に入って回復魔法をかけられそうな予感が少しだけ真珠丸の気持ちを楽にさせた。
真珠丸が宮殿に連れてこられた時、幾多の宮殿の人々に出迎えられる。
真珠丸はその中に沙羅をみた。
たしかに沙羅を見た気がした。
少なくとも真珠丸にはそっくりに見えた。
思わず振り返ってみたがその姿は人々に紛れて確認することはできない。
真珠丸は心の中がなぜかチクリとなった。
(沙羅は確かに故国に帰ったはずだ。別人に違い無い)
それから、数日後、彼女をもう一度見かけて、思わず真珠丸の視線はその姿を追う。
彼女は後宮の衣装を身に付けていたので、自分と同じ立場であることが解り、真珠丸は複雑な思いだった。
その時、真珠丸はちらっと一瞬だけ彼女と目が会ってしまった。彼女はそっと目を伏せて口だけで微笑んだ。
その不思議な微笑みを見た瞬間真珠丸はなぜか心臓を鷲掴みにされた気持ちになる。
高鳴る鼓動を深呼吸して『落ち着け、落ち着け』と呪文のようにつぶやく。
宮殿に着いてからも瀧海は真珠丸を訪れる事がなかったが、それすら気にならなかった。
むしろ忘れていたといってもいい。
その日からというもの真珠丸は機会があれば彼女の姿を捜し目で追うという事を繰り返す自分が押さえられなかった。
はじめて経験する自分では制御できない気持ち。
そんな真珠丸の姿に気がつき、瀧海は静かに真珠丸の視線を目で追っていた。
真珠丸の視線が彼女を追うのをまた、瀧海の冷たい視線が追う。
しかし、瀧海は何も気がつかない振りをしていたが、心の奥に残酷な気持ちが芽生えるのを押さえる事ができなかった。
異国の舞踏団が瀧海達の前で晩餐会の時に踊る事になった。
「なんだ、これ?」
晩餐会の為に用意された衣装をみて思わず顔をしかめた。
どうみても女性用の衣装だった。
「こんなの、着れるか」真珠がそう叫ぶと何時の間に来ていたのか瀧海が入り口のドアにもたれて
シニカルな笑みを浮かべていた。
「じゃあ、裸で行くが良い。ここには俺の服以外は女用しかないんだ」
「お前の服で良い」
「卵の様子が見たく無いのか?」
それは脅しだった。
瀧海の隣はいつも真珠丸だけだったが、その日はなぜか真珠丸の隣に沙羅にそっくりな少女が
座らせられている。
瀧海がそっと席を外した隙に真珠丸は堪らず声をかけることにした。
しかし皆に気が付かれぬように前をみたまま殆ど口は動かさなかった。
「お名前を伺ってもよろしいですか?」
彼女は驚いたようだったが少しはにかんで答える。
「綺羅(きら)と申します」
「もしかして沙羅と言う名を御存じですか?」
綺羅は怯えたように真珠丸を仰ぎ見た。
「真珠様は沙羅を御存じなのですか?」 「ええお世話になりました」
「沙羅は弟ですわ、真珠様は沙羅の所在を御存じなのですね?」
綺羅の声は切羽詰まっていた。
「沙羅は国に帰るといっておりました。瀧海殿の許可が出たので」
そこへ瀧海が戻ってきた。
「真珠、もう綺羅と仲良くなったのか?」
シニカルな瀧海の笑みを真珠丸は流し目でみると聞こえない振りをして前を向いた。
二人を交互に見ると瀧海は冷たい瞳のまま、無理に真珠丸の顎を上に向けて言い放つ。
「真珠、そろそろ卵が孵るぞ、どうだ、見に行きたく無いか」
綺羅の前でその話をされるのは真珠丸にとって恐ろしく残酷な事だった。
真珠丸は固く口を閉ざすと喉の奥底から沸き上がってきたものを無理に流し込んだ。
「明朝、食事をしたら用意をしておけ」
瀧海は静かにそう言い渡すと黙って席をたった。
真珠丸はすべての列席者が自分を見ている心地がしていたたまれなかったが、
しかし何事もなかったかのようにじっと前を見据えてもう、綺羅を見る事ができなかった。
その夜、瀧海は宮殿に来て初めて真珠丸の部屋を訪れる。
真珠丸の唇にそっと唇を重ねてからそっと頬を撫でる。
「綺羅が気に入ったか?お前の侍女に付けてもよいぞ」
真珠丸は嫌がってその手を振り解こうとした。
「いい子にしてるなら、考えてやってもいい。」
真珠丸の手が止まる。
屈辱的ではあったが、真珠丸はもう、逆らう気持ちが失せていた。
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