深遠のカオス。
こもった匂いと深い闇の中で僕は手探りで自分に何が起こったのか
意識を取り戻そうとしていた。
微かな明かりが岩影から零れているのであろう。
目が慣れてくるとあたりが少し
何かの植物の茎を乾かしたものがあたりいったいに敷き詰められているのが見えた。
多分、随分前から自分をこうしてここに監禁しようと企んでいたのであろう。
躯のあちこちが軋むように痛む。 思わず呻きそうになるが、慌てて口に拳をあてて洩れそうになった声を押しやった。
今、何か動物の毛皮の上に無造作に自分が全裸で転がされているのが解る。
動く度にかさかさと乾いた音がしてそれは僕を恐怖に引き戻そうとしていた。
思いだしたくない現実。これが現実だとしたら、僕は皇子に戻れないどころか
裏切り者として故国を追われる事になるだろう。
泣いちゃダメだ。泣いたらすべてを認める事になる。
僕はこの現実を認めない。僕がこの現実を変えていくのだ。
絶対に....
「にいさま。待って」
クリスタルのような声を転がしながら、色白の子供が走ってきて
兄を掴まえるように飛びついた。
兄と呼ばれた少年もどちらかというと少女のような幼さと華奢な感じがする。
「お兄様も15才になったら、元服式をして本当の男性になるんでしょう?」
この双児星である『藍の大地』では人々の殆どが女性体で彼等のような
未分化の性を持つものだけが王族として輿入りを認められるのだ。
その上、皇太子と認められた皇子だけが男性単体になる事を許された。
他の皇子達は、他の王国の妃としてそれぞれ散っていき、子供を一人もうけた後は
その子をその国に残して一般の者達の夫となるためにそれぞれの土地へ旅立つ。
濃い血は強い団結を意味していた。
長く平和が続いているのもそのためだと『藍の大地』人々は疑わなかった。
しかし、その皇太子だけが憂いていた。
『この世界の綻びはすでにはじまり、回復魔法である白魔法で修復できる段階は過ぎている』と。
なぜ、自分がそう予感するのか、それは偉大なる白魔導師である父王の血を
色濃く受け継いだからに間違いない。
しかし、それは皇太子『真珠丸』をさらに憂鬱にさせる。
実の母である皇后が第二皇子である『瑠璃丸』を皇太子にしたいがために
そのような歴然とした優位を認めたがらないからだった。
『藍の大地の真珠』と呼ばれるこの王国の真珠丸は今年15才。
他の国々から集まるそれぞれの皇太子と顔合わせを兼ねた元服式が行なわれるのは
桜の季節である毎年の習わしである。
それは色とりどりのまばゆいばかりの召し物を身に付け各国の皇太子と皇子達が列席し、
気に入った皇子を見初めれば婚姻も可能で、そういう意味でも大切な行事だった。
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