月のつめ痕 (6)

ラブリーボーイズの園・2 参加作品(ぺんぎん)



 縫殿の愛撫は丁寧でゆっくりと百春を解していく。唇で、指先で、掌でやさしく百春のすべてをなぞり たしかめるように何度も行き来した。まるで百春を愛おしむように。 例え、この行為が嫌がらせでも構わない、好きな人に触れられている今だけは幸福でいよう。 百春はそう思い込むように感覚を研ぎすまし、縫殿の愛撫を自らも追い求めていた。

 おずおずと躊躇いがちに縫殿の肩に腕をまわす。

 「もう、爪を立てるなよ」

 縫殿が百春の耳朶をそっと奥歯で甘噛みしながら囁く。

 「モモは誰だっていいんだろ?こんな風にしてくれる相手なら。従兄弟の僕にだってこれだもんな」

 揶揄するようにそっと百春の先端を握りしめた。

 「うぅ……」

 百春が身体をそっと離して見つめると縫殿の漆黒の瞳はあの夕べと同じ瞳だった。誘うような濡れる瞳。 冷たく氷のように美しい縫殿にも惹かれたが、薄桃色に上気し、情慾に溺れる縫殿の表情は 百春をも現実から欲望の海流へと引きずり回し翻弄してゆく。

 「もも……」

 縫殿が熱く微かに囁く。

 「怖くないか?」

 どうして縫殿は憎い相手にこれ程優しく囁くのか?これが本当に縫殿の声なのか?なんと甘美な旋律を紡ぎ出すのだろう……

 百春は微かに頷いた。縫殿は熱い吐息を漏らしてから、百春の先走る情慾の露を 幾度も幾度も奥の蕾に運び、ノックするような規則的なリズムで刺激を繰り返す。

 「あぁ……」

 百春の喘ぎもこれ以上ない程熱を孕んでいた。 縫殿は百春の喘ぎに合わせながらゆっくりと中指をねじ込んでいく。それは強引ではあったが 百春が勘違いしたくなるほど、丁寧で官能的だった。

 「うっ」

 「すぐに……慣れる……」

 「い……っ」

 指が増えて思わず眉間に皺がよる。

 「大丈夫、大丈夫だから……」

 縫殿はそういってあやすと馴れた手付きでひやっとするものを敏感になっている場所に塗り込め 押し込んでゆく。

 自らの意思と切り離されたように百春の蕾は息づいていた。 何か固いものがあてがわれたと思った瞬間、楔が打ち込まれ激痛のあまり百春は声を限りに叫んでいた。

 「あぁあ〜〜〜っ」

 その声は突然に口を塞いだ縫殿の掌でくぐもってゆく。

 「……やだ、助けて……」

 「静かにしろよ」

 縫殿は片手で口を押さえ、片手で躊躇することなく百春の腰を思いきり引き寄せた。

 「……っ」

 百春はゆっくりと記憶から遠ざかっていった。  



 突然ドアが乱暴に開かれ般若のような表情の邦彦が仁王立ちしていた。

 「何をやってるんだ」

 邦彦は縫殿の父親だ。大好きな父が今にも歯ぎしりせんばかりに固く奥歯を噛んでいる。 行為はすでに終わっていたが、そこかしこに行為の残骸が鏤められていた。

 「僕らはお互いに納得してやってるんだ。お父さんには関係ない」

 それを聞くと邦彦はカッと眼を見開いて、縫殿の細い腕を掴んで無理矢理部屋から引きずり出す。

 「そういう相手が欲しかったら、いくらでも金で買えるやつがいるだろう」

 「それ……どういう意味?」

 縫殿は邦彦の言葉が信じられない。

 「百春はだめだ。こいつの機嫌を損ねたらいざと言う時にお金が入らないだろう?」

 「お金?」

 「あぁ、百春が18になると財産を自由に使えるはずだ。百春は莫大な財産を相続してるんだ。 その時の為に引き取ったに決まってるだろう。」

 「そんなの……嘘だ……お父さんは百春が引き取り手がないからって……」

 「何をきれいごとを言ってるんだ。あの子の一番の価値はそれだろ? あんなぼろぼろの捨てられた子犬みたいだったあの子をなんのために引き取って こんな綺麗になるまで育てたと思ってるんだ」

 縫殿は黙って首を振った。そんな事で怒られるなんて信じたくない。あんなに尊敬する父親がそんな風に考えて百春を引き取ったなんて。 何度も激しく顔を振る度に大粒の涙が肩に飛び散ってモモが縫殿につけたつめ痕にしみる。

 「嘘だ……」

 百春にどす黒い欲望を持ったのは僕だけじゃなかった。お父さんまでが……。

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