月のつめ痕 (5)

ラブリーボーイズの園・2 参加作品(ぺんぎん)



 

 「たしかに痩せてマシになったよ」

 縫殿の眼が意地悪く光る。何をいっているのだろう?

 「許容範囲だ」

 そういうといきなり百春の股間に手を伸ばしてきた。 ぼくのモノを潰す気だ……思わず百春は身を固くした。その恐怖に竦み上がった場所になぜか生暖かい吐息を感じる。

 「ひっ」

 縫殿の意図を知って百春は滅茶苦茶に暴れた。しかし縫殿の手順がよほど良いのか 見た目より力があるのか、その抵抗は殆ど意味を為さなかった。 その手淫行為の間、どれ程暴れようと叫ぼうと縫殿は殆ど感情を出さずに無言でそれはすすんでゆく。 どういうつもりでこんな事をするのか?こんな風に僕の尊厳を傷つけて滅茶苦茶にするほど、この美しい従兄弟に嫌われているのか?

 抵抗し泣きながらかたく瞑った眼をあきらめてそっとあけると、窓の外にはあの日と同じ三日月が見えた。 しだいに自分の意思に反して沸き上がってくる欲望に百春は翻弄されてゆく。どうしてこんな風になってしまうのか?縫殿の肩に必死に掴まってなんとかその激流をやりすごそうとして思わず、縫殿の肩に爪を立てた。

 「う、あぁ」

 喘ぎ声は縫殿の口から発せられた。百春は出しそうになる声を必死に堪える。それをみて縫殿の人形のような感情を伴わない顔が信じられないくらい色っぽく変化していった。 縫殿の喘ぎ声と殆ど同時に百春の爆発もマグマの様に沸き上がり迸った。

 縫殿の綺麗な白い指を穢してしまった。縫殿の肩にいくつも三日月のつめ痕が腫れ上がるように残っていた。 真っ白な肩に残る赤いつめ痕……縫殿の色っぽい肩口にまた、百春は欲情しそうになる。 そんな欲望の虜になっている自分にあまりのショックから涙でぐちゃぐちゃになっていた。 しかし行為が終わると縫殿はまるで動こうとしない百春を後目に最後に綺麗に後始末をすると何事も無かったかのように部屋を出ていく。 茫然自失とした百春はまるで壊れた人形のように朝までそのままの形でぴくりとも動かなかった。

 まるでどこかのネジがはずれて動けなくなったように。

 その日から、百春は殆ど食べ物が喉を通らず、はた目にも解る程痩せていった。 縫殿の姿を見ると百春はつい避けるように身をかくしてしまう。 そうなのだ。縫殿の存在に恐怖しながら、縫殿の姿を眼で追ってしまう自分。 そして、それでもわずかでも近くにいることに心が震える程、餓えてしまう。

 百春はあんな事をされる程自分が憎まれていた事に深く傷付いていた。 そして、それでも縫殿に触れられる事を望む自分の浅ましさを持て余す。 深い深い底無沼に今でもずっと落ち続けている。そんな凄まじい感覚に酔ってどうにかなりそうだった。

 ※※※

 「もも君、最近すごく綺麗になったな」

 潮見がそういって縫殿の反応を見ようとする。

 「遊びにいっていいかな?」

 「いいよ」

 感情のこもらない声で縫殿は無機質に答える。

 「怒ってる?」

 「別に……」

 潮見は屋敷に入ると当然のように、百春の部屋を訪ねた。

 「ももくん、入ってもいいかな?」

 「はい……」

 食欲が無いので疲れやすくなり、その時も百春は横になっていた。 突然の来訪に百春は慌てて眼鏡を捜してきょろきょろと辺りを見回しながら枕元を手探りで捜す。

 何時の間に入ったのか縫殿がベッドに下に落ちている眼鏡を拾いあげるとフレームの先をゆっくりと噛んでみせた。縫殿と潮見は互いを探るように見つめあっている。その緊張を破るように縫殿は唐突に口を開いた。

 「潮見、知ってるか?最近、ももが綺麗になったのはね……」

 「あぁ」

 いきなり入ってきてシニカルに笑いそんなことをいう縫殿に潮見は困惑し身構えるように腕を組んだ。

 「モモにも恋人ができたんだ」

 「え……」

 潮見は絶句して百春の顔を覗き込む。

 「なぁ、モモ」

 そういうと縫殿はゆっくりと青白くなっている百春の顔にゆっくりと眼鏡をかけた。

 「本当なのか?モモくん」

 震えた声で潮見が呟く。

 「はい……」

 モモはやっとそう言う事ができた。 僕のこの汚い欲望の事を縫殿は揶揄しているのか?いくら縫殿が潮見が好きでもそれはあまりに残酷すぎないだろうか?縫殿は潮見に恋してる。僕がどんなに諦めたくて苦しんでも縫殿を諦められないような同じ気持ちで。冷たい瞳で縫殿が微笑み、潮見に見せつけるようにゆっくりと百春を引き寄せた。それで潮見はなんとなく何かを感じたようだった。 それが何かは潮見自身にも解らなかったけれど。

 潮見が出ていった後、百春は縫殿をきつく睨み付ける。 恋人だって?あの悪意に満ちた嫌がらせが、どこをどうすれば恋人の行為といえるのか。 いやただの嫌がらせならまだこんなにも傷付かなかっただろう。 縫殿の行為は百春の気持ちを知った上でそれを辱めたのだ。 もう、お前のような汚れた奴は誰の恋人にもなれないと。それなのに残酷な事に百春は縫殿を嫌いになれなかった。

 縫殿がそっと近付いてきた。 ゆっくりと唇を重ねてくる。百春の欲望を覚えた身体はそれでも縫殿を待ち望んで激しく反応した。 縫殿は憎むように僕を求めてる。そして僕の身体はそれでも喜びに震えてしまう。そんな自分を確認して、百春は涙を流す。

 『僕は汚い、醜い、汚れきっている』

 口付けは次第に激しくなり縫殿の指が百春の反応する場所を捜して蠢く。 快感だけが一時の苦痛の休息だった。 行為の後で恐ろしい程の後悔が襲ってくるのか解ってはいたが、そんな罪の意識をも外に追い出し、百春は縫殿の紡ぎ出す快感に身をまかせた。

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