月のつめ痕 (4)

ラブリーボーイズの園・2 参加作品(ぺんぎん)



 立ちすくんで動けなくなっている百春に縫殿の方から声がかかる。それはいつもに増して冷たかった。  

 「あいつに何をもらったの」

 見られていた?しかしはたしてこのまま縫殿に贈り物の中身を答えていいものだろうか? いくら親友でも潮見の心を傷つけるかもしれない。そんな事はできない。

 「あの……」

 それに今、自分に対しても説明できないこの感情をどう説明したらいいのだろう。潮見から安易に物を受け取る事自体が間違いだったと百春は今さらながら後悔する。 答えない百春をみて縫殿は小さくため息をついた。

 「もう、帰ろうか?」

 百春は驚いて縫殿を振り返った。そんな風に縫殿に誘われたのは初めてだった。 横目でそっと縫殿を盗み見ると白いというより青い顔をしている。こんな落ち込んだ縫殿を見るのははじめてだ。

 そうか、縫殿は潮見の事が……。 縫殿の本当に気持ちが解って百春の胸いっぱいに苦いものが拡がっていく。百春は小さく唇を噛んだ。 だから初めて僕を誘ってくれたんだ。きっと僕が指輪を受け取った事で誤解しているに違い無い。

 二人はそのまま無言で迎えの車に乗り込んだ。

 「指輪をもらった……」

 車が発車して暫くしてから心を決して百春が呟くようにいう。隠したって仕方が無いのだ。 その反応は予想以上だった。縫殿は飛び上がらんばかりに驚いて百春を見つめてくる。 その瞳は悲しみに満ちている。そんなに縫殿は潮見さんが好きだったんだ。 そりゃあみっともない僕があのイケメンの潮見さんに指輪を貰うのは、らしくないだろうけど そんな残酷なリアクションはないじゃないか。そこまで僕は疎まれ、軽蔑されてきたのか? 胸にもやもやしたものをかかえたまま百春は車が屋敷につくなり飛び出すように降りて部屋まで駆けてゆく。

 この気持ちはなんだろう。縫殿は潮見が百春に指輪を贈った事にあんなにもショックを受けていた。 片思いでもいい漠然とそう思っていたけれど、縫殿が潮見の事を慕っていると知った時の砂を噛むような苦い想い。 縫殿に好かれるどころか僕の事など消えて無くなればいいと思っているに違い無い。 遠くから縫殿を見てるだけでも幸せだったのにもうこの家も追い出されてしまうかもしれない。 沸き上がる熱い想いが視界を滲ませてゆく。

 どうしたらいいのだろう。どうしたら。 ベッドに俯せるとあとからあとから行き所のない気持ちと供に洩れる嗚咽を押さえる事が出来なかった。 片思いでいいなんて綺麗事だ。僕は潮見さんに嫉妬してる。こんなにも縫殿に思われている人。

 ふと気配に気が付くと何時の間にか自分の部屋の中に縫殿がいた。 ただでさえ、醜いのにこんなみっともない泣き顔を縫殿に見られたく無かった。

 「何をしに来た?」

 百春は精一杯の虚勢を張った。

 「指輪を見せてくれないか?」

 「嫌だよ」

 「みせろよ」

 「いやだっていってるだろ?」

 いきなり縫殿がベッドの上に上がって無理矢理ベッドの脇にあった小箱を取り上げようとした。 百春は取られまいと抵抗する。 予想に反して縫殿は細い身体にしては結構な力があった。二人はもつれあっているうちに偶然 縫殿の頬に百春の唇が触れた。

 その柔らかな感触に百春は電撃が走ったように粟立つ。つきたての餅のようにしっとりと 吸い付いてくるような肌だった。

 そのとたん、なぜか縫殿の眼の色が変わりいきなりのしかかってきた。 縫殿は乱暴に百春の眼鏡をはずすと馴れた手付きで手早く服を脱がしていく。 あまりの展開に百春はついていけない。我に返ってその手を逃れようと身体を捩るが 腕だけ残して脱がされかけたシャツをひっくり返すと後ろで縛り付けた。

 「じっとしてるんだ」

 「何をするんだ、やめろったら」

 縫殿に限ってこんな乱暴な事をするなんて思いもしなかった。僕を痛めつける気なんだろう。

 「大丈夫、心配しなくても痛い思いなんてさせないさ」

 殴られてぼこぼこにされるのだと思っていたから、痛い思いはさせないというのが どんな意味なのかお子様の百春にはさっぱり解らない。

 しかし、言外に匂わされた揶揄に、百春はかっと頭に血が昇るのが解った。

 「勝手にさせるか……」

 こんなにも縫殿がこだわっているなら逆に意地でも潮見と付き合ってやろうかとも思う。 こんなに苦しいのは僕だって同じなんだ。それに 潮見と付き合っていれば、せめて縫殿に無視されることはない……。そう考えてそんな情けない事を考える自分に百春は落ち込み、思わず首を振った。

 そんな百春の気持ちとは裏腹になぜか縫殿が百春のベルトのバックルに手がかけた。

 『痛い思いをさせないなんて言って、やっぱりベルトで殴る気だ』 そこまで憎まれるのかと半分覚悟して思わずきつく眼を閉じた。

 しかし予想に反して下半身が急に涼しくなったので百春が眼を開けると背中で両腕と一塊になったシャツ以外はすべてがあからさまにされていた。

 「や、やだ」

 なんて不様な格好をさせるのか?まさかこれを写真にとって校内に貼って笑い者にする気だろうか?

 こんな状況になっても、まだ虐めるつもりの縫殿しか思い付かない幼い百春だった。

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