月のつめ痕 (3)

ラブリーボーイズの園・2 参加作品(ぺんぎん)



 実はここ数カ月、百春は毎日歩いている為か夜も良く寝れて、以前はよく寝る前にストレスの為に毎日口にしていたジャンクフードに手を出すような事もさっぱり無くなった。おかげで本人の自覚は殆どないが すっかり体重は元に戻り、もともとの大きな瞳が目立つようになった。眼鏡のせいでそれは隠れ気味だったが 百春に関心を持つ者ならその愛らしい姿の虜になる者も少なく無かった。

 百春にも自分の外見の変化に多少の自覚はあった。たしかに最近身体が急に軽くなり、あんなに酷かったニキビも全く出なくなったことだ。 それどころか、優香さんがよく効く薬をマメに塗ってくれるおかげか、ニキビ痕も殆ど目立たなくなったような気がする。それに優香さんが『可愛い、可愛い』と百春を誉めてくれるので百春も満更ではなかった。

 あっという間に1日が過ぎて潮見との約束が百春の心を少しだけ不安にさせる。

 それにしても潮見はなぜ、自分に会う気になったのだろう?自覚のない百春には見当もつかなかった。 どこか気乗りしないまま、迷っている内に放課後になる。潮見と約束した欅の前に来て小さくため息をついてから図書館で借りた本を開いた。

 ヘルマン・ヘッセの「車輪の下」

 少し前までの抑圧された自分の気持ちを代弁してるような気がして思わず手に取ったのだ。 殆ど数ページも読まない内に潮見が姿を見せる。 約束した時間より5分ほど早かった。

 「ももくん、待った?」

 「いえ」

 百春がそういうと同時にまた潮見は又、いきなり百春の眼鏡を取った。

 「従兄弟だから縫殿にも似てるけど、もも君の方がやっぱり可愛い。でもあまり人気が出ても困るでしょ?」

 少し遠回しに潮見は呟く。その頬は照れて赤く染まっていた。そんな潮見を百春は妙に冷静に見つめている。『はっきりいってくれないと解らないなぁ』自然に言葉がつっけんどんになっていく。

 「何がですか?」

 「僕の前以外で眼鏡を取らないで欲しい。つまり僕は君が好きになっちゃったみたいなんだ」

 「はぁ……?」

 百春は脱力する。『男同志で?』心の中で潮見に突っ込みを入れたが直接潮見に言う程の勇気はなかった。

 「返事は急がない。もしOKならこの指輪を薬指にして欲しい」

 思いきり良く潮見が小さな包みを押し付けた。 男子校にはこんな事があると話には聞いた事があったが、自分のような冴えない取り柄のない男の子に縁がないと思っていたのでまさに青天の霹靂というやつである。

 どうしていいのか解らなくてぼぅっとしている百春を後目に潮見はじゃっというと人指し指を額のところで振ってあくまで爽やかに走り去った。

 百春は我に帰って可笑しくなった。縫殿の親友という潮見という男、気障でスマートな印象の割には自分のような最も恋愛に縁の無さそうな冴えないしかも男に告白するなんて結構まぬけな奴だ。それに縫殿に百春が似てるなんて目も悪いらしい。

 百春は思わずくすくす笑いながら帰ろうとした。

 『きっと毎日、縫殿のような美形を間近にみるので感覚も鈍ってしまったのだろう』

 そんな百春の前にすっと影ができた。それを見たとたん、百春は世界の時間が止まったような気持ちになって一気に顔が強張る。そこには切れ長の大きな瞳。長い睫。筋の通った形の良い鼻。そして小さな顎、赤い小さな唇、まさに完璧な容姿……それは制服を着ていてもまるでスーパード−ルのような縫殿の冴え冴えとした姿が夕日を浴びて映画のワンシーンのようにそこだけが切り取られていた。

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