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ラブリーボーイズの園・2 参加作品(ぺんぎん) |
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朝は黒塗りの見送りの車が玄関に待っていた。 縫殿が百春と一緒の車に乗るのは嫌だと言い出したので「僕は歩いていきます」と百春はそういうとさっそく歩きだす。 実際この屋敷から百春の転校した中高一貫の進学男子高はさほど遠く無い。歩いて15分ほどだった。 閑静な住宅地であるこの街はさほど車が通っている訳でも無く、広い前庭の付いた屋敷群は多くの小鳥たちにとって格好の餌場になるとみえ、小鳥のさえずりが心地よく耳をくすぐる。 「こんな気持ちの良い朝は久しぶりだなぁ」 萌黄色の芝生の住宅街を抜けると百春の新しい学校の門が見える。 綺麗な従兄弟に好かれてはいない様だが、縫殿は17歳で同じ学校の高等部、百春は14歳で中等部だったから、滅多に顔をあわせることもないだろう。 それにしても思い出すのは縫殿は人間離れした色の白さだった。華奢な身体にのった小さな頭に絹糸のような 細い髪が優しく覆っている。今まであんな人を見た事がなかった。 どんなに嫌われてもあれほど綺麗な従兄弟と一緒に暮らせる事は、ずっと楽しいことのなかった百春にとって とてつもなく心踊る出来事だった。 新しい学校は進学校だけあって授業のいくつかは、イギリス人の先生が英語で行なっていた。 もともと似たような学校に通い、留学経験もあった百春にとってこれもやりがいのある 楽しいものだった。 加えて、おぼっちゃま学校では柄の悪い子はいない。多少太めのしかも眼鏡の百春を特別にかまってくれることはなくてもいじめにあったり、露骨な無視をされることもなく、流れるように日常が過ぎてゆく。 あいかわらず、縫殿は百春を避けていたが、優香さんが優しく接してくれるので百春は 特別淋しくも感じなかった。 そうやって数カ月の時が何事も無く過ぎてゆき、夏休み直前のその日は朝から妙に騒がしかった。 台所も食堂もお手伝いさんが総動員で賑々しく働いている。 そこへちょうど、突然縫殿が姿を現した。いつもなら百春をみると嫌なものを見たというように避けて無視する縫殿が今日はゆっくりと百春の方に寄ってくる。 百春はこの状況に緊張と喜びで心臓が口から飛び出しそうになる。 「百春、今日は僕の友達がくるから、僕の事を絶対無視しないでね」 何をかいわんや、二人の間で完全無視なのはいつも縫殿の方である。 それでも、百春の胸は高鳴った。出て来ないでね。なんて言われるより100万倍ましだからだ。 自分とは別世界にいるような美貌の従兄弟の背中を見送っていると百春の胸はなぜか締め付けるように痛む。 それが、恋心とは百春は気が付かない。ただ、縫殿に話し掛けられた喜びだけがふわふわと百春の心を舞い踊ってゆく。 昼過ぎになると高等部のメンバーが12名ほどやってきて裏庭でバーベキューを楽しんでいた。籐で作られた椅子が並べられ様々なくだものや飲み物、大量の肉類が所狭しとテーブルに並べられている。 集まったメンバーはみんなさすがに高等部だけあってまるで大人と変わらない身体つきだ。まるで大人が開くパーティとなんら変わらない。そしてその中でひとり小さな顔の色白の縫殿だけが異色で百春には輝いて見えた。 「ごめんなさい、ももちゃんジンジャーエールのお代り持っていって」 優香さんにペットボトルを渡されて、百春は躊躇しながらもその集団に近付く。こんなキラキラした集団に自分のような冴えない子供が出入りするのは気が引けた。 「こんにちは。百春です」 名字は同じ河野だったので名前だけ名乗って挨拶をした。 みんなが一斉に百春を見る。それぞれみんな余裕があるのかおずおずした百春を暖かく迎えてくれた。しかし肝心の縫殿は一番離れたところで冷たい瞳で立っていた。 そしてそのすぐ隣に背の高い端正な顔だちの好青年が立っている。日に焼けた人懐っこい笑顔を百春に向けてきた。 「百春くん噂は聞いてるよ、縫殿の悪友の潮見です。縫殿とは初等部からの付き合いなんだ。よかったらモモくんも一緒にいかがですか?」 いかにも自然な感じで寄ってくると、戸惑う百春の手をさっと取って握手した。 「なんだ、縫殿が太っているなんて言うから、どんな感じかと思ったけど ちょっとぽっちゃりっていう感じじゃないか。予想よりっていうかものすごく可愛いよ」 そういうと前触れも無くいきなり百春の眼鏡を取り上げた。しかしそのまま眼鏡を持つ手が唐突に止まる。 「あ……っ」 一瞬潮見の顔が強張り、それからゆっくりとため息をはいて眼鏡を元の顔に戻す。 「急に取ったりしてごめんね。眼鏡も似合うよ」 潮見がにっこりと笑うとなぜか隣にいた縫殿は面白く無い顔をしてみせた。 それからすぐに再び皆の関心が縫殿に向い、ここにいる理由も無い百春が帰ろうとすると潮見がそっと呼び止めた。 「モモ君、明日、学校は何時に終わるの?」 「4時頃です」なぜ、そんな事を聞いてくるのだろう? 「じゃあ、その頃中等部の体育館裏に欅の大きな木があるだろう? あそこで、待っていて」 欅の木は知ってるよく恋人同志で待ち合わせしている場所だ。一瞬百春は嫌だなと思った。 「なぜ?潮見さんを僕が待っているんですか?」 「実は君にあげたいものがあるんだ。でもみんなの前じゃちょっとね」 たしかに潮見はかっこいい高等部のお兄さんだ。しかも縫殿の友達だが、放課後にこっそりと会いたい程の関心はない。潮見がどういうつもりなのか知らないがそんな誤解されやすいところで会いたく無いなと思った。かといって、断るうまい言い訳も考え付かない、百春は断るタイミングを逸して引き上げてる潮見達を困惑した様子で見送った。 |