Mooncakes『月のつめ痕』番外

ラブリーボーイズ2『月のつめ痕』を先にお読み下さい



 見上げると下弦の月が瞬いている。次の満月まではまだ、間があるな……僕は小さくため息をつく。

 僕の両親が僕を置いて永遠に二人だけの世界に旅立ったのはもう、去年の事だ。あれから僕は親戚をたらい回しにされ、最後に辿り着いたのが従兄弟の縫殿(ぬい)の住むこの家だった。

 僕の家も決して小さくはなかったけれど、通いの家政婦さん5人もいて、月に2度は専門の業者が本格的な掃除をしにやってくるこの家は、外観の荘厳さとは裏腹にハイテクを駆使した今風の造りでいつも僕は驚かされてばかりだ。

 伯父さんも、従兄弟の縫殿も新しモノ好きだから、次々と変なものが家に設置されていてびっくりハウスみたいだと思う。そんな僕をいつも縫殿は嬉しそうにからかうのが好きだった。

 ……そうなんだ。僕が今一番会いたがっていて、父母に会えない寂しさを紛らわせてくれた人……縫殿は今、この彼の家にはいない。

 彼は成績もスポーツもそこそここなす高校生だけど、何が一番驚くのかと言うとその容姿だ。 色白で切れ長の大きな瞳。逆三角のちょっと尖った顎がセクシーな顔立ち。 口を開かなければ、綺麗なお人形さんみたいだと思う。 だけど、口を開けば機関銃のように次々と発せられる毒舌。

 でも、なぜか彼は僕にだけ優しい。

 「モモ……」

 彼のハスキーボイスでそう囁かれたら僕はもう訳が分からなくなってしまう。 そして二人で甘い甘い夜を過ごす。本当は僕が縫殿に色んな事がしたいけど、 痩せてるようで筋肉質な縫殿に僕が適うはずもなく。 いつも僕が一方的に喘がされている事だけが今の僕にとって一番の不満だ。

 縫殿は気がついてないみたいだけど、僕も少しずつ大きくなってる。 だから、僕が縫殿を喘がせる日もそんなに遠くはないはずだと一人で妄想してほくそ笑む。

 そんな縫殿と会えなくなってもう5ヶ月……縫殿はカナダの高校に一時留学しているのだ。 カナダには多い中華系の友人ができて、その友達にもらったのが美味しかったからと 僕の為ににわざわざ、本格的な大きな月餅を中華料理店にネットで注文して届けてくれたけど どんなに美味しいものだって一人で食べたって味気ない。

 それよりその友達と僕のことなんか忘れて楽しく過ごしているようなそんな気がして とても食べる気になんかなれなかった。

 「仲秋の名月の頃に一度帰るよ」

 いつ頃かと思ったら今年は9月の28日だった。

 まだまだ先じゃないか……。

 中国や香港では8月15日に祝うそうだから、月餅が届いたのは8月の初め……実は僕はその月餅を食べずに冷凍してあるのだ。縫殿が一時帰国したら一緒に食べようと……。 それだけが今の僕の楽しみだ。

 最近、クラスメートに僕と縫殿が似てるって言われるけど、僕はぴんと来ない。 ちょっと前まで不細工だといじめられていた僕がある日突然白鳥になったよと言われて戸惑う醜いアヒルの子みたいなものだ。

 あんな綺麗な縫殿に似てるって言われて僕も満更でもない……時々鏡を見ながら縫殿に話し掛ける。

 縫殿……早く帰ってきてと。

 

 つづく……(仲秋の名月の頃にアップ予定です)

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