曇りガラスの向こうに降る雪は

5万HIT記念8



 湊は今度は全く抵抗しなかった。まるで浄瑠璃の人形が人形遣いを無くしたかのように 力が抜けてなすがままになっている。

 「お金を援助したいと言うのは俺じゃない。湊のおやじさんから金を 預かっているんだ。それは数年前は数千万だったけれど、俺はその金を借りて 何十倍にも増やした。会社は俺だけのものじゃないから、いますぐすべてを清算する訳にはいかないけれど このマンションとお前が数年間勉強できる程度の物は、すぐ用意できる」

「お父さんが?」

なぜ?水上に?と湊は続く言葉を飲み込んだ。

「俺の金だと思えば嫌だろうが、お前の受け取るべき正当な金だよ。 何か資格をとってもいいし、留学してもいい」

「だから、もうお金は欲しくないんだってば、欲しいのは自由だけだ」

「湊のいう自由は身体を売る自由だろ」

「どんな風に僕が生活しようと君には関係ないはずだ」

「あるね」

「ない」

「ある」

「ない」

「俺にはあるっていってんだろ」

水上は思いっきりよく押し倒した。

「どうせ嫌われてるんだ。とことん嫌いになればいい。無視されるより 存在を抹消されるよりずっといいさ」

「やだ……よせ」

 口ではそういいつつ抵抗はせずにじっと見つめる湊に水上はゆっくりと恥辱を煽るようにガウンをすべり落とした。 そのまま、ゆっくりと肩口から桃色に立上がってるつつましやかな突起を舌先で愛撫する。

 なぜ、他の男達にさわられると鳥肌が立つのに、水上なら身体の奥が熱くなるのだろう。 こんな浅ましい自分の身体が嫌でたまらない。

 女ならよかった。女なら男に身体を開かれるのは喜びのはずだから。 だから女になりたかったのに。 でもどんなに綺麗だとは言われても女になんかなれなかった。 僕は男で女じゃない。結婚もできない。妊娠もしない。なぜ、そんな当たり前の事が 僕の心を傷つけるのだろう。

 落とされる唇が熱い。そこから泉が沸き上がってくるように僕の心を潤す。 僕は浅ましい。嫌な素振りをしながら結局水上の熱い唇や愛撫を待ち受けているのだ。

 お金だけじゃない。最終的なところで僕がゲイバーを選び、ニューハーフと呼ばれる人種になろうと したのは、自分をめちゃくちゃにしたかったからだ。 でも、結局何も変わっていなかった。

 水上に会い、水上に抱かれると僕の身体は喜びを噛み締めてしまう。 そんな自分の身体が苦しくて悲しくてたまらないのだ。

 「お前の身体を忘れた事はなかった、他の誰かを抱いてもこんな感覚に落ちることができない。 そう、湊の身体は僕にとってジグゾ−パズルの無くした最後の一片だ。どんなに似ていても 湊ほどの満足を得られないんだ」

 二人は見つめあうとそのまま夜の静寂に落ちていった。 熱く熱く燃え、細胞の最後のひとつまで惜しむように溶かし合い愛しあった。

 もう、言葉は何もいらなかった。

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