曇りガラスの向こうに降る雪は

5万HIT記念5



「冗談じゃないさ。お前に……湊に会えると思わなかった。しかもこんな形で」

「僕がおかまじゃ萎えるんじゃないの?」

「湊はおかまじゃないさ。頼むから俺を刺激しないでくれ。自分でも何をするか解らない。 湊にもう、乱暴したくないんだ。これ以上嫌われようもないけどな」

水上は小さくため息をついた。

「自分でもなぜ、湊に執着するのかわからないけど、お金払っても 湊が嫌がるから俺だってもう湊に無理はいわない。だから他の誰にも触れさせるな」

湊は無言で水上の瞳を見つめていた。

涙が一筋流れ落ちていく。

「金はあるんだ。親から貰ったもので始めた商売が軌道に乗ってこの不景気の割にそこそこ やってる。普通の仕事をしろよ。学費でも生活費でもなんとかする」

「……だからセックスさせろって?無理だよ。これでも少し良くなったけど、少し接触障害があるんだ。 無理にされたら吐いちゃうよ」

 そうはいいつつ湊は心の中でなぜか水上に触れられて接触障害が起きていないのを認めざるを得なかった。 そしてそれがなぜか無性に悔しい。なぜ、この男に自分の身体が嫌悪しないのか?最もきらって良いはずなのに、触れられるのが嫌じゃなかった。水上に会ってドキドキする自分が不思議だった。そして女の格好をしている自分を見られるのが恥ずかしいと感じた。同情されたくないから?自分でも自分の気持ちが解らない。

「でも他のやつとはやっていたんだろ?どうして俺はだめなんだ」

「……。」

「そんなに嫌か?このまま俺から援助受けるのも?」

「……」

「だけど、帰してやらない。ここにいるんだ」

水上だってなぜ自分がこんなに湊に執着するのか解らなかった。



 数年前の湊が突然姿を消したあの朝、まるで半身が切り取られるような痛みを感じた。 慌てて向った湊の家には父親しかいなくて、なぜだと詰め寄る水上に上月の父は 小包みを投げて寄越した。

そこには、数千万円分の札が入っていた。

「これは?」

「君の父上が息子の慰謝料として置いていったものだよ」

「父が?」

「受け取れるものか、こんなもの。こっちにも最低限のプライドがあるんだ」

 オヤジはなんてことを。金だけで解決しようなんて最低だ。 いや、暴力で上月を好きにしていた俺のオヤジらしいといえば、似たもの親子なのかもしれない。

 水上は思わず土下座していた。

「許してください。湊君が好きだったんだ。こんな事になるなんて……」

 ただ、項垂れるしかなかった。許してくださいなんて都合の良い事を思わず口走ってしまった 自分を思わず悔やんだ。

「俺は湊を傷つけたお前を許す事はできない。お金を受け取る取らないで 妻ともめて離婚した俺にお前を責める資格がなくてもだ。お前の父親にこの金を返そうと思っていたけれど 気が変わったよ。お前が持っていけ。そして少しでもまだ、湊の事が好きならお前が自分の力で湊を救ってやってくれ」

 水上が顔を上げた時にはすでに湊の父親が玄関のドアを閉めかけていた。 そこに水上と小包だけが残され、暫くの間、水上は立上がる事ができなかった。

 BACK WORK TOP NEXT