曇りガラスの向こうに降る雪は

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 すべて撮り終えると自分の汗を拭いながら、浩輔は湊の額もそっとタオルで汗を拭った。

「ありがとう、湊、もうお前を無理に拘束したりしない。でも……」

 そういってから、浩輔は固く結んだ口をくしゃくしゃに歪めてから決心したようにつぶやく。

「会うのは最後かもしれないんだ。湊、最後の本当の言葉をくれないか?」

「本当の言葉?」

湊は幼子のように反復して問いかける。

「接触障害は本当だったんだな?マスターに聞いたよ。

殆ど客と話すだけで、隣にすわるのも滅多になかったって」

「そんな事、よく……覚えてない」

すべてがどうでもいいようで、湊は物憂げに呟く。

「お前の意思で俺について来て欲しい」

湊ははじめて夢から覚めたような気持ちになった。

「な、何?」

「湊、お前と離れるともう、俺はダメになってしまう。お前が仕事につけるように なるまで、それでいいんだ。俺と一緒にアメリカにいかないか?」

 湊の瞳から涙が溢れ出ていく。止めようと思っても次から次へと溢れ出てゆく。 震える肩を浩輔が強く抱き締めた。

「このまま攫っていきたい。でもそれなら今までの繰り返しだ。 湊、お前の意思でついて来てくれ。それがだめなら、もう、2度とお前の前に現れはしない。 約束するよ」

 そうだ、自分の意思で立上がらなければ、僕は男なんだから。

「僕はおかまだ」

「おかまなんかじゃないさ。湊は湊だ」

「浮気するかもしれない」

「接触障害なのに?」

「気が向いたら行くかもしれない」

「来るさ、必ず」

「英語話せないよ」

「今夜から特訓さ」

「本当に英語の特訓?」

「俺が教えるとエロばかりかもね」

 曇りガラスの向こうに雪が降り積もる。どんなに曇って見えなくても雪は降り積もっている事実を変える事はできない。  自分で運命を選ぶという事、それから湊は逃げていた。本当はそれを知っているのに気がつかない振りをしていた。すべて運命や他人のせいにしてきたけれど、今度はもう、逃げられない。選ぼう素直に心の声を聞こう、それが第一歩だから。

 今夜も雪が降り積もる。湊と浩輔の過去の上にも。


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