唇の上に落ちるもの


 

【 9 】

 僕は思いっきり駆け出した。一緒に駆け出した将汰に「ついてこないで!」と残酷な台詞を吐き捨てて。

 嫌な女だ。

 本当に最低の女。

 こんな嫌な女にどうして将汰は執着するんだろう?

 僕なら、絶対将汰にこんな思いをさせやしないのに。

 息が切れる程無茶苦茶に駆けて駆けて、他目的トイレに駆け込んで、上に羽織っていたブラウスを脱ぐと中は普通のT-シャツだ。

 こうして激しい運動をすると、なぜか変化はすぐに起きる。前の時もそうだった。 少し大きめの男もののTシャツが、身体が変化するときちんと肩幅がフィットした。 女のからだが一回り小さかったと自覚するのはこういう時だ。僕は小さくため息をつく。 会いたかったけど、本当は会いたくなかった。色んな事を自覚させられるから。

 そのままトイレから出ると、そこに左右を確認しながら人探しをする将汰と目があった。

「おい!ここで走ってくる女に出会わなかった?」

「女って女性なら、どこにでもいるじゃないか?]

「だから、普通じゃない走り方をしてる女だよ」

 将汰の自分勝手な物言いに苦笑しながら

「知らない」と答える。

 将汰も自嘲するような笑みを浮かべて

 「逃げられると追いたくなるのが、男の狩猟本能なんだろうな」

 などと言ってから、僕の肩をぐっと引き寄せた。

「お前の部屋に行っていい?」

「どうして…」

「行きたいから」

 駄目とは言えない……言いたいのにいえない。将汰が絶交宣言してから僕達碌に口も聞いてなかった。

 あんな苦しい思いをするなら、どんな事だって我慢する。 将汰が僕の身体を使って自慰の手伝いをするのだって厭いはしない。

 そう覚悟を決め将汰を自室に招き入れるのに、もう躊躇がなかった。

 自室に入ってドアを閉めると将汰は、飛びつくように僕の身体を押し倒し、唇を合わせてきた。 突然の事で驚く僕に、彼は、しだいに手を下に這わせて、ボタンを外しジッパーに 手をかける。

 やめてといいたいのに、息すら満足にできなくてあっという間に 下着ごとジーンズが下ろされ、太腿の間に、固い膝を食い込ませてくる。

 まずい、彼も下半身に 何も身につけてない。

 必死に身を捩るが、気付くと両手を一つに纏められて、彼の大きな手で拘束されていた。

「や、やだ…よせ」

 やっと唇を離して、必死に抵抗すると「黙れ」と思いきり頭を殴られた。

 なぜ、殴るんだ?

 なぜ殴られなきゃいけない?僕は、微かに薄れる記憶の中でそう抗議した。 気を失ったのは一瞬のことだったらしい。将汰は僕の両手を薄目のスポーツタオルで縛り上げると そのままベッドの支柱にかけた。もう身動きも取れない。

「よせ、もう抵抗しないから……」

 そう必死に抗議したけれど、「うるせーよ」と将汰に一喝されて震え上がった。 僕は、今まで両親にだって手を上げられた経験がなかった。 怖くて、情けなくて震えと涙が止まらない。

 それなのに、将汰は、全く僕を見ていなかった。

「狭いな……」

 彼が見つめていたのは、僕だって自分でも見たことのない奥深い場所で。

「こんな場所にはいるのかよ」

 自問するように呟くと、将汰は、その狭い秘所に思いきり指を差し入れた。

「う〜〜!」

「男なら我慢しとけよ」

 男だから我慢しなくないんだよ!僕はそう心の中でツッコミを入れるが、怖くて口が聞けない。

 そんな震える僕を見て、将汰は仕方なさそうにため息をつく。 そしてそのまま指を抜くと何か……多分唾液か何かだろうが、申し訳程度にぬり始めた。

 冷や汗が出て、気持ち悪い……。さらにゆっくりと指を差し入れてくる。さっきほど違和感はなかった。

 だけど抜かれる指に背筋がぞくっとなる。

 なんだ、この感覚は……。

「吐きそう……」

「いきなり入れると切れるらしいぜ」

 ってマジかよ?入れるってお前、僕にいったい何を挿入する気だよ。

「じっとしておけよ。お前、結構その気になっているじゃないか」

 ふざけた事をいうなと思ったけれど、将汰に握りこまれたソレはすでに、形を成していた。

 嘘だと思う。

 身体が熱くてまた、何も考えられなくなる。将汰も興奮して吐息だけが、熱く滾っている。 後ろに違和感を感じたとたん、かなりの圧迫感と痛みで思わず呻いた。

「大丈夫……大丈夫だから」

 そんなおざなりを言いながら、さらに身体を押し進めてくる。どっと汗が噴き出し、宙を握りしめた。

「そのままじっとしておけ」

 さらに自分勝手な事をいうと、将汰の抽送が始まった。

 がくがくと乱暴に扱われているのに、抵抗できない……それどころか僕自身は、しっかりと勃ち上がって 僕の腹を打った。

「男の癖にこんな事されて感じてるのか……」

 それが、僕の独り言ではなく将汰の言葉だと知って僕は泣きたくなるのに、抵抗できない、何も考えられないし、絶頂がそこまできていて僕は自分でも早く終わらせたくて腰を振った。

 僕の絶頂と共に噛んでいる後ろが、痙攣するように将汰を締め付ける自覚があった。

「うおっ!すげっ」

 そう叫んだ将汰が、くっと一瞬痙攣すると、熱がじんわりと腹の中に拡がっていく。

 だが、彼は余韻もなく突き放すように、僕の身体を押し退けると、

「つい、最後までやっちまったな。でもお前も気持ち良さそうだったじゃないか」

 と冷たく言い放ち、まるで汚いものでも触れたかのように振り返りもせずに、僕の部屋から立ち去っていった。  

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