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「さ、触るな」 全てが将汰にばれてしまったのだと思うと、僕はいてもたってもいられなくなった。 一刻も早くこの場から逃げ出し、自分を消し去ってしまいたい。 だけど、繋がった身体は、将汰にがっちりと押さえられ、ぴくりともしない。 「離せ、離せったら」 半分泣き声になった僕の声で、少しだけ将汰の僕を押さえ込む力が弱まった。 その隙に逃げようと試みても、また、力が加えられその上、僕の中に入り込んだままの楔が 一度は欲望を放ったにも関わらずさらに大きさを増して、僕を驚かせる。 「泣くな……暴れると逆に興奮するから、じっとしてろよ」 勝手をほざく将汰に、僕の頭は真っ白になる。僕が力を抜いたのを確認すると将汰は、 繋がったまま、器用に僕の身体をひっくり返して、僕の顔を見下ろした。 二人の視線が絡まると僕はどうしようもなくなって、思わず呻いた。 「見るな、見ないでくれよ」 瞼の端に引っ掛かっていた、熱い雫を将汰は優しげに小指で拭った。 「嫌だね。俺はお前を見ていたい。お前が感じて喘ぐ顔も、イク瞬間のイイ顔も 全部みたい」 いったい何を将汰はいっているんだろう? 何かの罰なのか? 僕が将汰を騙したから? 女の僕が将汰に邪険にしたから? 「許して……お願いだから」 頭は真っ白のぐちゃぐちゃなのに、身体だけは欲望にさらわれて熱くてたまらない。 好きなのに、こんなに好きなのに。僕の好意は将汰の悪意しか編出さないのか? 欲望と心が、どうして連動していないんだろう? 「あ…っ……だめ……お願……っ」 こんなにも心は冷えきって震えているのに、僕の欲望は彼と僕のお腹の間で、浅ましく 蜜を零し続けている。 「許さない……もっと気持ち良くさせてやる、気持ち良くなりたいんだろう」 心は悲鳴をあげているのに、彼が自分の胸の突起で僕の突起を舐るのを僕は腰を揺らせながら 耐えていた。 「やだ……あっ…あぁ……ん…んっ」 ゆっくりと唇の上に落ちてくるのは、彼の柔らかな吐息。 彼の余裕を示すようなそれに 僕は泣きたくなる。 たとえ、今の僕達が、身体は一つになっても心は、どれほど遠く離れている事か。 何をされても、罵倒されても、憎まれても将汰に対する恋心を手放せない僕と、本意ではなかったとはいえ 結果的に将汰を騙し、そしてあろうことか女になってまで将汰の気を惹こうとした 親友の仮面を被った卑怯者を懲らしめようという将汰。 もう、いい……。 許してくれなくていい。 将汰が、納得するまで思う存分、この身体を蹂躙し僕を卑しめればいい。 それで少しでも将汰の心が癒されるなら、それでいいじゃないか。 僕が力を抜くと、将汰の動きがさらに早くなった。 「トモ……可愛い……お前が好きだ」 そんな将汰の声が幻想として聞こえてきた。 もしかして、薬の使い過ぎで僕は死んでしまうのかもしれない。 そうだとしたら、どうか将汰に罪の意識を纏わせないで。 「将汰……僕……もう」 「分ってる……イカせてやる」 違う……そんな事してほしくない。僕の望みは、将汰の苦しみを救ってやりたいだけ。 それなのに、それだけのはずなのに、どうして僕の身体はこれほどまでに浅ましいのか。 「いや…だ……やっ」 夢見心地から、頭と欲望が爆発して霧散する。 どん欲に僕の内部が畝って将汰を締め付け続ける。 将汰も、僕の奥底に欲望をスパークさせた。僕の身体の中に暖かい将汰の欲望が注ぎ込まれる感覚を 僕は体中が軋ませながら、受け止めていた。 弛緩した将汰の身体に体重を預けられ、その重さに、僕は自分のしてしまったことの罪の重さを 重ね合わる覚悟を決めた。 「ごめんな、トモ……無理させて。お前があの娘(こ)だと知ったらもう歯止めが利かなくなって」 僕は何も言えずに、欲望にまみれた身体を近くにあったバスタオルをなんとか引っ張りあげて隠す。 「どうして…将汰が謝るんだよ……?何も言わずに……騙していたのは僕なのに」 将汰が優しい瞳で、そっと僕を見下ろして唇を落とす。 「トモは、騙していたんじゃない。俺に言えなかっただけなんだろ?だって、避けていたのは俺の方だもんな」 身体を起して、そのままバスルームに向った将汰に僕は、混乱して何がなんだかさっぱり分らなかった。 これが、もし夢なら覚めないで欲しい。たとえ、目覚めた後に、あまりにも自分に都合のいい夢を見る自分が 愚かしく思えても、今だけは微かな喜びの予感に浸っていたい。 それぐらいは、許されるだろう? 堅く絞った熱いぬれタオルを将汰は、まるで見せびらかすようにぱんぱんと叩きながら 近付いてきた。 「じっとしてな。何度も出したから気持ち悪いだろう?俺が綺麗にしてやるから」 甲斐甲斐しく僕の身体を拭き浄める将汰を僕は、夢と現(うつつ)の狭間で見つめていた。 「変だと思ったんだ、自分でも。あんな一瞬しか遇わなかった女にどうして心ごと持っていかれちまったのか」 将汰の手付きは、大切なものでも扱うように優しかった。僕はその将汰の通った感覚だけでいきそうになる。 「トモだったんだもんな。俺さ、ずっとお前を友達以上に可愛いと思う自分を押さえられなくて 苦しんでいたんだ」 僕は、どこか上の空で将汰の言葉を聞いている。それが、日本語なのに難解な外国語のように 僕の心を戸惑わせる。 こんなはずはない。これは、現実じゃない。 きっとどこかに落とし穴がなる。自分の気持ちを預けた瞬間に 全てが、消えてしまう。マッチ売りの少女のマッチのように。 「だからお前に必要以上に邪険にしたり、冷たくしたりした。寂しそうなトモを見る度、俺は逆にお前を 恨んだよ。どうして俺の心をこんなに惑わせるのかと」 「僕が女じゃなくても、いいの?」 一番恐れていたことを口にする。 「お前が、女だったらよかったのにと、いつも思っていた。そんな時、一目惚れするような女が現れたんだ。俺はほっとしたよ。あぁ俺は普通だったんだ。普通に女にも恋ができるじゃないかって」 僕は思わず将汰にしがみつく。もう、何も言葉に出なかった。ただ、溢れる涙を拭う余裕もなくて。 「そりゃ、一目惚れもするよな。だってあの娘はお前だったんだもの。ずっと、気付いてやれなくてごめんな。俺だってお前だったから、お前だったから夢中になったんじゃないか。お前だったから俺は……」 「将汰……」 「お前にばかり辛い思いをさせて、悪かった。自分に素直になれなかった俺自身を恨むよ。 もっと早く認めればよかったんだ。心も身体もお前を欲していたんだって」 僕は首を振る。 「僕も将汰が女になった僕の事ばかり気にしていたから……」 将汰が僕の口を封じるように優しく唇を落とす。 「トモが、あの時、『トモって呼んで』って言ってくれたから、トモが女の身体を俺に決死の覚悟で 差し出してまで、俺を諌めようとしてくれたってやっと気がついた。 実をいうと、女のトモを抱く気にはなれなかった。それを俺はお前を穢したくないからだと 理屈をつけていたけど、身体も心も男であるトモを欲していたんだと思う」 やっと現実に戻った僕はどうしても気になっていたことを聞いてしまう。 「もしかして、女から男になる様子をずっと見てた?」 将汰は人の悪そうな顔でにやりと笑う。 「まぁね!生まれ変わるみたいで、すげ〜色っぽかった。本当は今日は絶対お前とやらないって 思っていたのに、俺の息子は言うことをちっとも聞いてくれなくてさ」 そんな将汰の言い草に、僕は思わずムッとして、将汰を睨んで顔を背ける。 「意識のない人間に、なんて事してくれたんだよ!鬼畜だなお前!」 僕の減らず口に、将汰は僕の首筋に唇を寄せながらそっと囁く。 「いいじゃないか。おれたち、互いに初めては、あの時済ませたんだから」 ちっとも爽やかじゃない事をそんな爽やかな顔をしていわないでくれよ。将汰。
FIN.
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