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「トモ……」 彼は僕の名前を、実際には彼女の名前だと思っているのだろうけど……。 そう囁くと将汰は、おずおずと僕の唇に触れるだけのキスをしてくる。 優しく頭を撫でられて厚い胸に抱き寄せられた。 僕も彼にしがみつくように腕を回す。 やっと捕まえた。 僕をこのまま滅茶苦茶にして……そうして将汰の望みが成就したら、きっと彼は このきつい想いから解放されるのだろう。 僕も経験した、どれほど手放したいと願ってももがけばもがくほど、絡まる想い。 これほどまでに苦しい思いをするのは、僕だけで充分だから。 僕のこの男の心を持った女という不完全な身体が、君の役に立てるなら 僕がどうなったって後悔はするまい。 幾度となく彼は丁寧に僕の唇を舐めたり、舌を絡ませたりして充分にキスを楽しむ。 僕の身体は熱くなり燃えるようだった。男の僕なら主張するモノもないから女の身体の僕は、この熱がもどかしくて身体をくねらせ。 「熱い……熱くて」 僕がそういうと、彼がゆっくりとシャツブラウスのボタンに手をかける。 「好きだ……トモ」 あぁ、もう死んでもいい。抱かれながら彼に名を呼ばれるなんて。この一瞬で昇華してしまえたら、僕の魂はどれほどの幸福に浸れるだろう。 将汰が僕だけを見つめ、将汰が僕だけに触れ、将汰が、愛おしげに僕の名を呼ぶ。 『好きだ……トモ』と。 「嫌だと思うことはしない……だから、触れてもいいかい?」 微かに頭を動かして同意をしてみせるけど、全身が熱くて、胸の中が燃えるように熱くて、 涙が止まらなくなる。 頬を撫でるようにゆっくりと包む優しい指先。 何度も落ちてくる弾力のある唇。 僕は将汰とキスしてる……どうかこの夢が覚めないでほしい。 「夢みたいだ……興奮しすぎて、トモ……を壊しそうで怖いな」 愛おしそうに見つめる瞳、自分に優しく微笑む幸せそうな笑顔に、胸が押しつぶされそうになる。 騙してごめん、僕なんかが好きになってごめんと。 そろそろと躊躇いがちに背中を触れる指先に、電流が伝う。 乱暴に身体を繋げた時には、感じる余裕さえなかった欲望が、自分を捕らえる。 「壊して……」 自分の口から出たとは思えないほど大胆な言葉に、驚いたのは、自分だけではなくて、将汰の 朱に染まった頬に僕は自分の頬を重ねて背中に離れかけていた腕を回す。 壊して……滅茶苦茶にして……。 僕が、もう僕じゃなくなるまで粉々にしてほしい。お願いだから、僕が僕として愛されていると 今だけ、誤解させて欲しいんだ。将汰に誤解しろなんて厚かましいことは思わない。僕が自分自身でこの一瞬だけは、愛されていると思い込むのを許して欲しい。きっと将汰にとっては、迷惑だろうけれど。 重ねられた唇に、自分の唇をこじ開けられ、乱暴に貪り尽くされる。 欲望が二人を包み込んで一つの熱の塊に溶かしていく。 身体を繋いだ時でさえ、感じたことのない深い快感に揺さぶられ振り回され、突き落とされる感覚に 僕は、意識を飛ばしていた。 眠っていたのはほんの一瞬だと思う。 まだ、将汰のキスは続いていて、背中から双丘に向う稜線を 優しくなでられていた。 僕の足が将汰の背中に絡まり、僕が気を失っている間に、しっかりと結合されていたらしい。 灯された欲望の熱い焔に、絡み取られ自分でも信じられないほどの妖しい喘ぎをあげていた。 全身が性感帯になったように敏感になり、僅かの快感にも耐えられなかった。 好きで身体を繋げるというのは、こういうことなのか? 自分の細胞の全てが溶け出して、気化してしまいそうだ。あぁ、どうにかなってしまう。 「トモ、トモ……」 もっと僕の名を呼んで、もっと僕を熱くして。 このまま僕が消えてしまわないうちに。 胸の奥から込み上げるものが、僕の目尻から熱い雫となってこぼれ落ちる。 「将汰……」 声が掠れて、それがいつもと変わらない低い声に自分でも驚く。 入り込んだ将汰の欲望も、違和感がなかった。 違和感がない? 初めてなのに、初めてのはずなのに違和感がない? すっと血の気が引く。 まさか…まさか僕の身体は……。 離れようとする僕に、僕の中に穿たれた将汰の楔が、さらにその存在を主張する。 熱かった身体が、心に連動して急速に冷えてゆく。 嘘だ、僕の身体が戻りかけてる……いや、本当に男に戻りきってしまっているのかも しれない。 将汰が、夢中になっている間に、彼が気がつく前に早くあの薬を飲まなくっちゃ。 なんとか身体を離そうとするが、夢中で僕を貪る彼は、さらに逃すまいときつく抱き締めてくる。 駄目だ……どうしよう。 声も出せない……このまま彼に抱かれていたら。 そう思うと血の気も凍る思いだ。 僕を罵倒する将汰が目に浮かぶ。 『そこまでして、俺に取り入りたいのか』 『気持ち悪いんだよ、男なんか』 天国から、地獄へとまっ逆さまに落ちてきた僕は、せめて将汰にだけは、嫌な思いをさせたくないと 必死に身を捩るけど、彼の拘束はびくともしなかった。 背後から、覆い被さるように貪る どうしてこんなことに……。 あんなに多めに薬を飲んだのに、どうしてこんなに早く利き目がきれかかっているのだろう。 自分の胸に手を当てると、すでにあるはずのふわふわと柔らかい膨らみは、堅めの筋肉に変わられていた。 いやだ、いや……。 こんな姿を将汰に、将汰にだけは見られたくはない。 ここまでして、未練をのこしている薄気味の悪い男だと罵倒されたくない。 ただ、将汰に思いを遂げてほしかったんだ。 将汰が満足してくれるなら、それでよかった。 本当にそうだろうか……いや、それは詭弁だ。 僕は将汰の為といいながら、浅ましくも将汰に抱かれて感じまくっていた。 将汰に抱かれる喜びを、限り無く謳歌していたじゃないか。 だから罰があたったんだ。 どれほど罵倒されても、将汰さえ傷つかないでくれたらいいけれど、僕が男だとバレたら、将汰だって 傷つかないはずはないんだ。 渾身の力を込めて、将汰の身体からなんとか逃れようとする。 「どうして暴れる?俺の痛いか?俺、乱暴か?トモ……トモ」 彼がそう叫んだとたん、彼の欲望の飛沫が 僕の身体の深い場所で、彼の所有の証をつけた。 「トモ……朋之」 将汰の口から溢れた言葉が僕を石に変えた。 嘘だろ?嘘だ、嘘に決まっている。 きっとこれは悪夢の続きなんだ。
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