霞みの煙る山並の(2)-5

ライジング・サンに載ったものを先に読んでね



 その日を境に勇真は近藤のミスを指摘することは無くなった。 もちろん、1本抜けてる近藤がミスをしなくなった訳では決して無く、 気が付いて焦って戻るとミスが何事なかったかのようにちゃんと修正されていた。

 忘れ物も近藤の机の上に分かりやすいように置いてあった。 あんなに嫌だった勇真のミスの指摘が無くなるとなぜこうも淋しくなるのか、なんだか不思議だった。 無論、みんなの前では勇真の様子は普通だった。いや、かえって前より親切なくらいだ。 でもそれはどこかよそよそしく、距離を感じてしまうのはどうしようもない。

 授業の終わった午後、武田が職員室で声をかける。

 「近藤先生、最近なにかありましたか?」

 「え?どうしてですか?」

 「なんかミスが多いし。ぼうっとしてるでしょう?。相談にのりますよ、どうですか?今夜いっぱい?」

 そういって盃を傾ける仕種をしてみせる。

 「はぁ」

 積極的に行きたいわけではなかったが、一人で部屋にいるとますます落ち込みそうだった。

 「Lovesickっていうクラブが出来たでしょう?そこで待ってますよ」

 佐藤勇真に武田と出かけるなと釘を刺されてはいたが、あんな子供に言われたくないと反抗心が 沸き上がる。それに『恋煩い』なんて名前のクラブにちょっとだけ興味があった。

 その店は外装に負けないくらい内装もお洒落な店だった。 心地よい程度の喧噪とそれに絡み合うHIPHOPが混ざりあい独特の雰囲気をつくり出していた。

 武田はいかにも系の格好でやってくる。近藤はそれをみてごついタイプの武田も結構可愛いやつだなと 思ってしまった。

 「おぉ〜あの子モロタイプ」

 そういうと武田は近藤を席に置いたままタイプの女の子めがけて場所を移動した。

 『おぃ結局俺は、当て馬かい?』

 近藤はため息をつきつつ仕方ないので挨拶もしないで店を出る。

 タクシーを掴まえようと歩いているとここが『psychomachy』 の近くだったのを思い出した。

 ついふらふらと『psychomachy』の扉を開けると数人の男の子が近藤の廻りを取り囲む。

 「翔平さん、もう来ないのかと思いましたよ」

 「アランはやめちゃったから、今夜は誰を指名するの?」

 マネージャーがボーイ達を怖い顔でカウンターに戻してからなにげない様子で近藤の隣に座りこむ。

 「翔平さんは、年上は興味ないんですよね?」

 「え?おれより年上の可愛いBOYなんているの?」

 そういう近藤の顔を舐めるようににやりと見つめた。 このマネージャーもBOYあがりで結構なハンサムなのだが、ガタイといい、どちらかというと野郎系の顔といい近藤のタイプでは無い。

 『誘ってるんだろうか?タイプじゃない奴に金なんか出したく無いな』そう思ってどんな反応をしていいのか近藤は困ってしまう。 ふと気が付くと近藤の肩にマネージャーの腕がまわっている。BOY達は事の成りゆきを興味深げに息をつめて見守っていた。

 「翔平さんなら、結構稼げるのにな。僕にまかせてくれれば、翔平さんのバージンを200万で 買いたいっていうナイスミドルを紹介しますよ」

 何をいいだすんだ?この男は。何がバージンだ。男経験がないのをバカにしてるのだろうか?

 「ぼ、僕はいい、お金になんか特別困ってないから」

 そう言った近藤の頭を大きな手でぐっと引き寄せるとマネージャーがキスを仕掛けてきたのがわかった。

 「よせっ」

 そういうと近藤は半分躓きながら店のドアに突進した。 背後では卑猥な笑いが渦巻いている。

 『上品な店だと思ったのに』

 バカにされた悔し涙が頬にぽたぽたと落ちてくる。

 「ちくしょ〜」

 近藤が顔を上げるとアランの格好の佐藤勇真が他の男とさっきのクラブに入っていくのが見えた。 自分が、嫉妬してもどうにもならないとわかっていながら近藤はついふらふらと二人の後を追って もう一度『Lovesick』のドアに手をかけていた。

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