霞みの煙る山並の(2)

ライジング・サンに載ったものを先に読んでね



 

 「先生、ココ違ってます」

 いつも冷静沈着な声で生徒会顧問の近藤翔平に注意を促す男。

 それが佐藤勇真だ。

 名字も面白みが無いがこいつも面白みがない。 会った頃から翔平はいつも心の中で悪態をついていたが、 こいつは、実はとんでもない曲者だった。

 「後は、よろしく」

 逃げるように生徒会室を後にすると後ろから、アイツが追いかけてくる。

 「先生、また忘れ物」

 車の鍵だ、悔しいがこれが無いと帰れない。

 「いつも一本抜けてますよね。先生って」

 「うるさい」

 「今晩飲み会があるんですって?」

 「お前に関係ない」

 「武田先生と2次会になんか付いていっちゃだめですからね」

 「なんでお前にそんな指図をされなきゃいけないんだ」

 「じゃ後で」

 何か意味深な言葉を残して佐藤は生徒会室に戻っていく。 疑問に思いながらも考えたく無いと近藤は首を振った。

 さて宴もたけなわの飲み会。 先生達の飲みっぷりに圧倒されながら、近藤のピッチは正反対に 落ちていく。早く帰りたくて仕方ない。 落ち着き無さそうにちびちびとビールを口につける近藤に 同学年の先輩でもある武田が寄ってきて声をかけた。

 「近藤先生、そんな飲み方じゃ、美味しいビールも不味くなっちゃうよ。 ビールっていうのは舌で味わうんじゃ無くて喉で飲むんだから」

 「はぁ……」

 何かと面倒を見てくれる世話好きの先輩、武田は 近藤にとって最もたよりになる人だった。 相手が佐藤じゃなければ、武田に恋愛相談だってしたいところだった。 しかし、それだけは不味いだろう。

 情けない事に近藤は高校生である佐藤勇真に振り回されっぱなしなのだ。

 「2次会どうします?」

 「すいません、調子も悪いので今日はこれで失礼します」

 「じゃあ、僕も帰ろうかな。送っていきますよ」

 ちょうど、ホテルの宴会場を出たところだった。 なんとそこに、背の高い男が立っている。佐藤勇真じゃないか。 近藤は思いっきり顔を顰めた。

 「先生、1次会で帰るから待っていろっていったでしょ?」

 「なんでお前が待ってるんだ?」

 武田が不機嫌そうにいう。

 「塾の帰りが暗くて怖いといったら、今日は飲み会を1次会で帰るから 一緒に帰ろうって誘ってくださったんですよ」

 嘘八百である。よくもぬけぬけとこんな嘘がつけるのだろう。

 「本当ですか?先生!」

 武田の声には明らかに嫌悪と疑念が含まれている。

 「はぁ、すいません。今夜はお先に失礼します」

 近藤は半分逃げるようにタクシーに乗り込んだ。

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