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冷静に考える時間ができて初めて人間というのは自分の置かれた立場を整理してまとめて考える事ができる。
つまりこうだ、ユウには僕の他に恋人にしたい奴ができたということなんだろう。
もう、僕に抱かれるのはまっぴらだということで。
可愛い女の子か、はたまた美青年の恋人を手に入れるために僕との関係をきっぱりと精算したんだろうな。
僕とセフレとして浮き草のようなその場限りの快楽に溺れるより、真っ当な恋愛の方を取ったというユウの結論は人間としてもっともじゃないか。
だけどこんな中途半端な気持ちのまま放り出された僕はどうなる?ユウを忘れられるのか?
もう僕はぼろぼろで他の子を抱く気にもなれない。
いったいその日から何度ユウを思い出して眠れぬ朝をむかえただろう。アイツの痴態を思い出しては
ひとりで自分を慰めていた。
情けなかった。 忘れたかった。 でもどうしたらこの地獄から抜けだせるのか誰も教えてくれはしない。
食欲も減ると比例するように体重も減り、上司からも友人達からもいったいどうなってるのかと声をかけられる。
誰より僕の身体と心を気遣ってくれたのは 大学時代からの友人でユウの事もある程度勘付いている神崎だった。彼には何度も飲みに誘われ、
彼女にこっぴどく振られてもう立ち直れないといって愚痴る僕を慰めてくれた。
半分腑抜けのようになりながら、僕はなんとか仕事をこなし
ようやく半年がすぎようとしていた。
ふと気がつくとユウの事を思い出して心の疼きを感じて
苦しんだ夜も週に何度かあったけれど。毎晩ではなくなっている。こうして少しずつ恋の傷は癒えて終いには思い出に変わる日もくるのだろうか。
そんな夏の暑い日。
信じられない事に出先からの帰り僕は見てしまった。
ユウと若い金髪の男が親しげに歩いているのを。
ヤンキーかと思った金髪の男は背の高いイケメン外国人で。
しかもそいつはこの暑い最中ユウの腰を抱くようにして歩いている。
大学時代から2年近くも付き合っていたけれど、
僕なんか一度もユウにそんなことさせてもらったことなかった。
彼がそうやって女扱いされるのを嫌がることは身にしみて知っていたし、下手すれば回し蹴りのひとつも受けかねなかったから。
本当に好きな男にはなんでもありか?僕は所詮セフレだったから? そんな嫌な気持ちが胸の奥から突きあがってくるものに導かれるように僕は来た道を引き返し走り出した。
(いいじゃないか、もう何もかにも終わっていたんだから)
そんな心の声がする。
でも、でも。ユウはよくても僕はやっぱり納得できない。
「ちっくしょう〜〜〜」
僕は心の中で絶叫して立ち止まった。
ここで逃げてどうする。ユウはセックスフレンドというけれど、僕は恋人だと信じずっと他の誰ともつきあわずにユウがすべての最優先にしてきた。
僕だけが一方的に彼の恋人になりたがっていただけかもしれないけど。
だけど、それでももう2年近くも付き合ってきたのだから。彼がセフレだと思い込むように僕が恋人だと信じてつきあってきたことに何を気後れすることがあるのだろう。
僕は半分はやけくそで元来た道を戻りながらあたりを見回し2人をさがす。
背の高い外国人といっしょだったから、遠くからでも彼等の姿はすぐに見つかった。
肉ばかり喰っていたのかあの外人は2M近くはあるだろう。
僕がまわり込むようにユウの前に立つとユウは酷く驚いてその外国人から離れた。 しかもなぜかうっすら頬まで染めている。
そういうことか……と今さらながら僕は思い知り、微かに温めていた恋心は凍り付いていくようだった。
それでも僕は未練たらしくその男に握手を求めて
右手を差し出し自分でも信じられない台詞が口から飛び出した。しかも英語で……
『はじめまして、僕はユウの恋人の竜斗です』
そういうとユウの腰を左手でぐいと乱暴に引き寄せる。
自分でも信じられないのだが全く、人間ってやけになると何をしでかすのか解らないものだ。
ところがユウの奴、英語が解らないのか予想に反して僕のその手を振りほどいたりしなかった。
それどころかユウも僕の腰に手をまわしてきた。
めっちゃくちゃ嬉しいかも。僕は全く未練な男だ。
『それは失礼しました。僕はボストンからKARATEの修行に来たPatrickです
Patって呼んでください。驚いたけど君の英語は綺麗だね。竜斗さん』
僕のつたない英語に不安を感じたのかひどくゆっくりした
訛りの少ない英語で話だす。
ユウは少し不安そうな顔で俺をみている。
「助かった。このアメリカ人を大学卒っていうだけで俺が面倒みることになったけど、英語が全然わからなくて....あのさ、まず、『離れてくれ』って英語でどういうんだ?」
僕は苦笑した。なんだ、心配して損した。でもユウが僕の手をふりほどかない
っていうこの状況は美味しいかも。僕は2人の間に割り込むように入り
つたない英語でなんとか通訳をはじめた。
ユウはこのボストンから来た空手野郎の部屋を捜したり、色々な手続きをしなくてはいけないらしい。
「後のコイツの手続きは全部僕がやってもいいよ」
ユウに日本語で囁く。
「今夜部屋に来て泊るだろ?それで手を打とうじゃないか」 僕ってかなりとんでもない男かも。
困っている別れた恋人に身体を代償にさせようなんて。
ユウは露骨に嫌そうな顔をしたが、
「わかった。本当にそれだけでいいのか」
と不安そうな瞳で小首を傾げて僕を見上げる。やっぱり可愛い。
この顔が僕のツボにぴたりと嵌まってしまうのをこいつは知らないんだろう。
Patがユウの腰に手を回していた時は地獄の閻魔さまに会ってしまったような
気になっていたが、今は現金なことにPatが天使に見えるから不思議だ。
僕は今夜、久々にユウの身体を自由にできるという喜びで
まるで雲の上を歩いてるように足取りが軽かった。
最低限の事務手続きを終えると俺達はパットを彼のアパートに送って
そのまま俺のマンションに向かった。
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