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彼女達によるとこんなえっちな本を並んで買うやつらがいるらしい。
それも殆ど女だというのが驚きだ。
「ゲイでも美形じゃないと許せないんです、私達。」
別に彼女達に許してもらうつもりはむしろ誰にもないだろうと僕は思った。
「羽生さんって凄い綺麗じゃない?あなたもすごくかっこいいし。
2人が結ばれるといいなぁって思ってるんです。」
「あははは」
もう、結ばれてるよ。あいつの心は遥か彼方にあるけどね。全くイマドキの女子高生は……と
僕は乾いた笑いを浮かべるしかなかった。
「この本を出した時、同じ空手道場に来てる佐高君っていう高校生と羽生さんをモデルにカップリングしたんですけど。絶対、あなたの方がお似合いです。それに羽生さんの事いつも観てるし
こんなカップルがいたらなって、いつも妄想してたのに、ぴったり。」
なんだって?それは聞き捨てならない。
おいおい…と僕は心の中で思いっきり突っ込みを入れる。いったい佐高ってどこのだれなのか??本当に彼女達が疑うほどにユウと親しいのか?そう思うと心臓がきゅんと縮まる感じがした。
「でも、羽生さんってねぇ、実際お話したら、声は低いし性格も凄く男っぽい方でなんかちょっとショックでした」
そうなんだよな……実は僕もそれで悩んでいるんだよ。そう思うとそれだけで先ほどまで抱いていた嫌悪感はすでに霧散して仲間意識が芽生えてくるから不思議なものだ。
「私、佐藤麻美っていいます。これ携帯の番号。よかったらあなたのも教えて」
まぁそんな義理はないと思いつつ、少し興味を覚えてそのメモと交換に僕は名刺を渡した。
「もう、僕も仕事に戻らなくちゃ。また楽しい話きかせてよ」
と一応僕も大人だから半分以上は社交辞令でいっておく。
彼女もにこにこと手を振った。でも多分もう話を聞く事もないだろう。
その夜なぜか何度携帯にかけてもユウは掴まらなかった。
もしかしたら、電源を入れ忘れてるのかもしれないのに不安だけが募る。
今夜はどうしても会いたかった。なぜなら佐高ってやつの事を直接ユウから聞きたかったから。
聞けばまた喧嘩になるのは解ってはいたけれど。
半分諦めかけていた週末、なんとユウの方から携帯に連絡が入った。
「今夜行くから鍵空けておいて」
誘うのは断然、僕の方が多いから、こんなことでも僕はすごく嬉しくて。つい浮き足だった声になる。
「夕食はどうする?」
「コンビニでなにか買っていくよ」
「あ、あのさ、今夜時間があるから、軽めのものでいいなら僕が何か用意するけど…」
実は僕は料理がきらいではない。むしろどちらかというと好きな方だといえる。
一緒に暮らしていた祖母がいつも手作りの夕御飯を食べさせてくれた事もあるけれど。
なにより、コンビニの弁当なんか何が入ってるか解らないじゃないか。
凄い量の調味料が降り掛かってるってきくとなんか気持ち悪くなってしまうのは神経質すぎるかな。
「わかった」
ユウはぶっきらぼうにいうと会話を終えて突然携帯を切ってしまった。 あれ?怒ってる?もしかしてまた
何か怒らせたのだろうか?でもあんな気紛れなユウの心理なんか僕みたいな単純な男に解るはずもなく深く考えないでいようと心に決めた。どうせユウの考えなんて多分永遠に僕には理解不能なんだろうから。
冷蔵庫を確認して必要なものをメモしてから、仕事を早めに切り上げて有名海鮮市場にタクシーを飛ばす。
白状すると料理は好きだけど、僕の料理は場合間違いなく不経済だという自覚がある。
なぜなら幼い頃から新鮮高級食材に事欠かなかった我が家では、それになんの疑問も抱かなかった。
実家の援助がなくなったただのサラリーマンになった現在もその習慣だけは捨てられそうにない。
だから僕は食べたいものやこだわるものに金をかけてしまうのは仕方ないと今では割り切っている。
たぶん、外食する何倍も金がかかってるんだろうな。半分は僕の趣味とはいえ、ユウが何も僕の努力やこだわりに気がつかずにバクバク喰うのが気に入らない。 感謝しろとはいわないけど、少しは味わえ!!!と言いたいのだけれど、黙々と食べるユウを今夜も僕は嬉しそうな顔で見つめてしまうんだろう。
ムール貝、お刺身用のホタテそして6匹で3000円程の海老とグラム1000円のサフランを買ってパエリアをつくり始めた。
サラダにフランス製のモッツァレラとトマト、ルッコラ、この前海外旅行で手に入れたピーカンナッツを散らしたサラダもつけ合わせる予定。 祖母から貰った年代物のバルサミコ酢と最高級のバージンオリーブオイルで仕上げよう。 こうやって二人で食事を夢想するのは楽しいけれど、でもきっとユウは無言でさっさと食べて、やる事やったらさっさと帰るんだろうな。
あいつはそういう男だ。
分かっているのに……僕はため息をつく。僕も懲りない男だ。期待するから腹が立つのに。
たしかにアイツは男で女じゃない。顔だちが女顔だって、セックスは受け身だって
態度は男そのものっていうかむしろオヤジそのものだ。
そうなのだ。
仕方ないのだ。
もう、そろそろ僕が悟った方がいいのだ。
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