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さて、ユウの勤める空手道場は意外にも都心のビルの中にある。
しかも今雑誌にも取り上げられてる新しくおしゃれな感じのビルだ。
その同じ階にドーナッツ店があり、ガラス張りの道場の様子が良く見える。僕は、そこで時々得意先廻りの帰りや、空き時間に時間を潰すのを日課にしていた。
なぜって、そこでは働くユウの様子がなんとか見える。本当は双眼鏡でも用意したいところだけれど
ここのドーナツ店から怪しい奴として追い出されるのが目に見えるようだから仕方なく我慢している。
多分ユウは俺がここで時々時間を潰しているのは気がつかない。
きっとドーナツ店の従業員だって、多分、僕がユウを見ているとは思わず、
空手に憧れて観にきてはいるが、入会する程勇気はない男だと思いこんでいるんじゃないか。
そう思っていたのに、とある昼下がり、いきなりその状況が変わってしまった。
「よく、いらっしゃいますね。誰かに見とれているのかな」
そういきなり背後から声をかけられて飛び上がらんばかりにどきっとした。
振り返るとそこには茶髪の目をくりくりさせた女子高生らしい従業員が立っていて。僕に話し掛けてきたらしい。
ドーナツ店のアルバイトなのだろうか。あまり関心がなかったからじっくり見た事はなかったのだけれど、そういえば良く見かける気もする。
まぁ、彼女はかなり可愛い部類に入るだろう。この作った笑みは自分でも十分可愛いと自覚してるに違いない。
それでもこのあどけない表情はかなり僕のタイプかもしれない。そう思うと僕にも多少の余裕ができた。
「空手に興味があってね」
「本当ですかぁ?いつも観てるのは、羽生さんでしょ?彼って綺麗だものね」
俺は呆れた顔をしてアルバイトを睨んだ。初対面でいきなりそれか?前言撤回だ。かなりいけすかない女だ。
「どうでもいいだろ。それとももう来るなってことか?」
「とんでもない。友達とあなたの事を話題にしていたんですよ」
彼女はモップを床に擦り付けて掃除をする振りをしながら、ちっともここから離れようとしない。
「あなたってホストでもやってるようなかなりのイケメンだけど、私達が熱いラブラブ視線ビームを送っても
気が付かないくらい程店の女の子に殆ど興味がないでしょ?実はそれが
逆に私達の話題の中心になってるんです」
「ほっとけよ」
「いつまでもここでゆっくりしてくださっていいけど、その反応ってどうやら私達の憶測が図星ってことなのかな。すご〜く感激!
実は私本物のゲイってはじめてで.....邪魔しないから仕事があがったらお話きかせて
もらっていいですか?」
なんて女だ。話し掛けられるのだって充分邪魔。全く今どきの高校生は何を考えているのか。
第一、どうしてこんな小娘にゲイだと決めつけられなくちゃいけないのか?僕が焦ってると
「ね!2人で座っていた方が目立ちませんよ。ほらカモフラージュになるじゃない?」
というとさっさと持ち場に帰っていった。
こんな女に構っていると碌な事にならない。第一誰にもカミングアウトしてないしユウに万が一見られたらいったいどう言い訳すればいいのか?
僕はあわてて立ち上がろうとしたが道場の受け付けの小窓にユウの姿が見え隠れしている。
今出るのはまずい。仕方なくもう一度そこに座り直すと運悪くバイトを終えたらしい
先ほどの女子高生が席にやってきた。
しかも僕の了承も得ずに勝手に向かえの席に腰掛けているではないか。
なんてずーずーしい女だろう僕は心底呆れてしまった。
「実はね。私と友達と男同士の関係の同人誌を作っているんです」
そういうとその女子高生はおもむろに本をバックから取り出した。
その子はこちらの反応も見ずに勝手に話を進めて勝手に話してる。
「恥ずかしいから、ちらっとだけ観てくださいね。」
全く恥ずかしいなら見せるな!!!っていうか少しは恥じらいの気持ちを持てよ!
僕は心の中で絶叫した。
しかも本当に恥ずかしい本だった。おもいっきり僕は本から離れるように仰け反ったがそれでもばっちり
目に入ってくる。
全くいいのか、女子高生がこんな本を出して。
今どきおやじだってここまでスケベじゃないと思うぞ。
とにかく圧倒されて彼女達の話をきく。
でも、どうやら俺とユウが付き合っているのは知らないらしい。
多分、プラトニックだと思っていて、
「ちょっと刺激が強過ぎますか?」とまでいう…こういうのを怖いもの知らずというのかもしれない。
俺はなんていっていいのか、その対応に困ってしまってただ、目を白黒させてしまう。
そのまま信じられないくらいすっかり彼女のペースにはまっていたのだ。
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