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「酷い事を平気でいうんだな?」 「どっちが……あかりが好きな癖に男に身体を売ってるんだろう?その上、なにトチ狂って 俺の名前なんか連呼してるんだか?」 「それを俺にはっきり言わせてどうするんだよ。俺に残った俺の身体だけじゃ無くて 心までお前の自由になれっていうのか?それで実継は俺をどうしたいんだ? お前のプライドがそれで満足するならいくらでも言ってやるさ。お前が好きだって もうお前以外勃ったりしないって」 信じられないものを見るように佐久間が俺を振り返る。 「本気じゃないよな」 「本気じゃなかったらよかった。実継に俺の気持ちを預ける事だけはしたくなかった。 それだけは嫌だったのに」 佐久間は笑っているのか怒っているのか判らないような複雑な表情をしていた。 「あかりは?児島あかりは?」 「生意気な女が好きなだけだよ。別に彼女じゃ無くたってよかった」 俺がそう言い訳をするその隙に佐久間はすっと俺の後ろに指を這わせた。 「本当に?」 本当だからどうだっていうんだ?お前に関係あるのか?俺は身を捩る。 「お前なんか、さっさとドイツにでもどこでもいっちまえ!そしてさっさと許嫁と結婚しちまえよ」 「レオン……」 もう、お前に触られるのだって嫌だ。これ以上俺を惨めにさせるな。 「俺の許嫁って……誰か知ってるのか?」 佐久間の声は静かに低く響く。 「知る訳ねーよ」 「あかりだよ、児島あかり」 俺は必死に背けていた顔を思わず佐久間の方に向けあっけにとられたように彼を見つめた。 「嘘だろ?」 あかりが佐久間の?それであんなに二人は親しげだったのだ。 とたんに胸がきしんだ。 「残念ながら本当さ。でも俺達どっちも互いに結婚なんか嫌がってるから、協定を結んでるけどな。同じ男に惚れるとは思わなかったから、好きな相手と上手くいくように協力する協定なんて意味ないけどな」 「お前、元からホモだったの?」 「んなわけねーだろ。あかりに裏切り者って泣かれたよ。俺だって自分の気持ちを認めるのに抵抗ありすぎだったけどな」 そんな事言ったら、なんか実継が俺の事が好きなように聞こえるけど。 思わずふたりで見つめあってそっと唇を重ねた。 彼の粘膜が熱く俺を吸いつくす。 室内にぴちゃぴちゃと卑猥な音が鳴り響いた。 「レオン……本当に俺でいいのかよ」 「うん……お前こそ…」 そんなセリフに互いに照れて俺は思わず彼の厚い胸板にしがみつく。 そっと見上げた彼の瞳は、はじめて見るほど柔らかくて。 俺は胸の奥から沸き上がるものを押さえ込む事ができなかった。その感情はそのまま涙になって流れ落ちて…。 いつも感情がないような佐久間にこんな優しい眼差しを向けられる日が来るなんて思いもしなかったから、あんなに求めあった俺達なのに、結局朝までなんども俺も佐久間も互いの身体を確かめるように 求めあった。 父親が入院して借金があると聞いた時、独り息子の俺がしっかりしなければと 思うのと同時に、その感じた事のない責任感に 押しつぶされそうになっていた。 あの時、本当に助けが欲しかったあの時、俺を必要としてくれて そして窮地を救ってくれたのは佐久間 ……お前だった。 もっと早く素直になっていれば、桜庭にあんな思いをさせられずに済んだのに。 「今さらだけど桜庭に犯られた時、本気で抵抗したんだ…それは分かって欲しい」 好きだからこそ、誤解されたままなら辛い。 「知ってるさ」 「どうして?」 「お前は男より女が好きだから、あかりによろめいたくらいだもんな」 「よろめくってなんだよ。メロドラマじゃあるまいに……それよりドイツ留学どうするの」 彼の留学資金2000万を俺はすでに親の為に使っていた。 「あかりとレオンが結ばれたりしやがったら、ムクれてドイツに行ったかもな」 「じゃあ」 俺は思わず口元が弛んでいたに違いない。 「やめておくよ。お前を置いていくと心配だし」 「どういう意味だよ」 「いちいちいわせんなよ……」 佐久間はさっとたちあがると振り向きもせずに浴室に向う。 その首筋がほんのり赤くなっている。 俺はやっとベッドから身体を引き離すと佐久間の後を追掛けるようにシャワーを浴びて互いの身体を洗いあった。 もう、あたりは明るくなっている。早く用意をしないと遅刻してしまいそうだ。 「あかりにのしかかってるお前を見た時、頭が腹が立って仕方なかった。それはお前に 婚約者を穢されてるっていう怒りより、お前に欲情してもらえるあかりをぶちのめしてやりたい怒りだった。 どうしてそんな気持ちになるのかその時は解らなかったけど、光司にお前が乗り換えたのかもしれないと知った時、ピアノじゃ俺の心が押さえられないとやっとわかった」 「だからあの時、ピアノを弾いていたのか」 「ピアノは俺の感情を飲み込んでいつも浄化してくれていた。ピアノさえ弾けば俺は自分を取り戻せたのに」 俺達は車の送迎を断って小走りに近いスピードで歩きながら佐久間の告白を聞いていた。 朝まで苛まれた身体が言う事を聞かなくなっていた。少しずつ俺のスピードが落ちる。 ふっと身体がもち上がったと思うと俺は佐久間に背負われていた。 「よせ!はずいって!」 「うるせ!このままなら遅れるんだよ」 ゆさゆさと揺れる佐久間の大きな背中が心地よかった。 校門前でやっと降ろされたが、みんなに見られたに決まってる。 教室にはいるとみるくのゲージがない。 俺は真っ青になった。 クラスのみんなも居心地が悪そうにしている。担任の西村先生が、廊下で俺に指でこっちに来いと合図を送っている。 俺は不振に思いながら廊下に出た。 もうすぐホームルームもはじまるのに。「聞いたよ、佐久間に。世話の殆どはお前がしていたんだって?」 佐久間のやつ……よけいなことを。 「実はな。お前でだけ言うけどみるくは死んだ事になってるけどな。なんとか助かった。俺にも責任があるから、これからは我が家で息子達と世話をする事にしたよ」 「先生……」 「今まで孤立無援にして悪かったな。高校生のマナーを尊重するなんていって クラスのもめ事に無関心でいたこと、反省してるんだ。 俺は無責任だったよ。お前らにきちんとマナーも教えてなかったのにな」 こんなふうに素直にいえる先生って大人として尊敬できる。 「僕も意地を張っていてごめんなさい」 教室の後ろの扉にもたれて佐久間は悪戯っぽい瞳で俺達を見ていた。 俺はそのままその前を通りすぎる。なんだか妙に恥ずかしくて佐久間の顔をまともにみられない。 「あかりに怒られた。お前と一緒に暮らすっていったら籠の鳥にするつもりかって」 「なんで俺が籠の鳥だよ!」 「だよな、俺の方がお前にとりこまれてるようなもんだよな」 「俺を悪霊みたいに言うな!」 そこにあかりがどんとぶつかってきた。 「邪魔!じゃま!そこでじゃれてるんじゃないわよ」 つんとすました鼻を横に向け面白く無さそうな顔をしている。そんな素直じゃないあかりも可愛いなと思ってじっとみていたら、「あんな蒼い色香に惑わされてるんじゃねーよ」とぽかりと佐久間に頭をなぐられた。 【終わり】 |