池魚籠鳥 〈7〉




 「こういう場合は泣いたり下手に抵抗したりしない方がいいんだよ。 どうせ結果はいっしょなんだし、痛い思いや怖い思いをするのは君なんだから」

 ちくしょう〜〜悔しいけれど声も碌に出ない。

 「抵抗するとよけいに興奮するから怪我をさせちゃうよ。気持ちいい方がいいだろう?」

 そういうと大庭の指がボクサーパンツの中に入り込んで俺のモノを弄った。

 「縮み上がってるね。可哀想に……。もう私でなければいけない身体にしてあげる、さぁ」

 そのまま大庭は俺のボクサーをズボンごと一気に踝まで下ろした。 抵抗したいのに、大声を出したいのにちっとも声が出ない。

 そのまま大庭は制服のボタンを外すと、Yシャツごしに僕の乳首を舐るように撫で回す。 ゆっくりと彼の頭が下に降りてゆき俺は悲鳴を上げそうになった。

 彼が俺自身をいきなり口に含んだのだ。

 「可愛い……レオン……可愛い」

 口の中でそれを転がすようにしながら唇と舌を使って何度も扱きあげる。

 「や、くるし…いやだ……あぁ、あああぁ……み、実継……」

 思いっきり歯をたてられる。

 「うぅ〜〜!!!」

 「ばかな子だ。可愛がってやるといってるのに」

 「みつぐ……実継!みつぐ……」

 「うるさい!黙れ、その名を聞きたくない」

 「助けて〜みつぐぅ〜〜!!!!」

 静寂を破って微かに聞こえてきたのは ピアノの音だった。ショパンのノクターン夜想曲…第19番……

 音楽室で実継の衝撃的なピアノを聞いてから、あれがショパンのノクターンの一つだと知った俺は あれから、家にあったクラシックのCDを持ち出して片っ端から聞きかじっていたのだ。

 でもなぜ、こんな時に?

 あれを弾いてるのは間違いなく実継だ……

 なんて物悲しい調べだろう。

 しかも激しい……CDで聴いた時はこんな激しい曲じゃなかった。

 荒れ狂うような実継の心が僕の全身に鳥肌をたたせる。

 もしかして僕の声が聞こえている?

 それなのになぜ来てくれないのか?

 鼻から何か薬を吸わされ、下半身を弄られながら後ろの蕾に何か冷たいものを塗り込められた。

 あの部分が急に熱くなる。

 息が荒くなり萎えていた俺のモノがいきなり勃ち上がった。

 疼くそこから焼ごてのような痛みが全身を貫く。

 大庭が俺の中に入り込んだのだろう。

 「うぅうううう〜〜〜」

 「力を抜きなさい。これでは痛いだけだ。レオンも傷ついてしまう」

 全身から汗が吹き出して俺はそのまま意識を飛ばしていた。

 

 俺の荒い息と誰かの荒い息がリズミカルに重なるように鳴っている。

 気は失ったけどさほど時間はたっていないのか?

 俺の瞳には紗がかかっていてすべてが霧の向こうにあるような気がする。

 俺は死んだのか?

 優しく俺の躯を暖かな蒸しタオルでとんとんと拭く手がある。これは大庭の手なのか? 俺は大庭の優しさに縋ってしまった。

 躯を売ったも同様だ。

 もう汚れてしまった。

 だけどそれがなんだというんだろう?

 俺なんかどうせ、実継には女に暴行をはたらこうとしたスケベおやじみたいな男だと思われているんだ。

 2000万円の為に男に躯を差し出す節操のない男。

 そんな佐久間の印象にぴったりになっただけじゃないか。

 何も悲しくなんかない。

 何も悔しくなんかない。

 このまま流されて飽きられるまで大庭のおもちゃになるんだろう。

 そんな姿がぴったりじゃないか。

 自分の保身の為に「みるく」も見殺しにした俺。

 心だけじゃなくて躯も心に合わせてとことん腐ってしまえばいい。

 最低の俺だったら佐久間に嫌われて当然だから……佐久間がもう俺の事に関心がなくなっても 軽蔑されても何の不思議もない。

 死にたくなる程辛いのは、本当の俺を受け入れられてその上で捨てられる時だ。

 きっと、きっと大丈夫。

 それなのにどうしてこんなに後から後から泉のように涙が溢れ出るんだろう。

 

 躯を拭いていた蒸しタオルがそっと躯を離れると熱い吐息が睫毛をくすぐる。

 弾力のあるぷるっとした生暖かい感覚が瞳の端に感じるとそのままこぼれ落ちそうな涙をすくいとった。

 紗のかかった先に大庭の顔ではない人物が浮かび上がった。

 まさか……佐久間?

 実……継。

 なぜ?どうして彼はここにいて俺の近くに?

 なぜ?

 なぜ?

 そう思うと全身が沸騰するようで急速に覚醒した俺は思いっきり起き上がろうとした。

 だが両肩をがっちり捉えられて動けない。思わず目を見開くと焦点が合わない程間近に佐久間の顔があった。

 「お前って奴は、純粋無垢な顔をしてるくせに とんでもない野郎だ」

 「何が……」

 「金さえ出せば誰にでもケツを差し出すのかよ……」

 「ち、違う]

 「俺とした時は未経験だったくせに随分大胆になったものだな?」

 何時の間にか着せられていたパジャマを一気にはだけられる。

 「よせよ」

 「今さらだろ?俺も気持ち良くしてくれよ」

 「う、よせよ」

 「金かよ」

 「ふざけるな!」

 「だってそうだろ?金さえだせば俺とだって初めてだろうがやりまくりだったし、光司にだってこうして金でやらせたんじゃないか」

 「ち、違う……違うったら、彼とは合意じゃない」

 「よくいうぜ、光司はお前を自分のモノにしたっていっていたぜ。いつからだ」

 「……無理矢理だよ……俺は抵抗したんだ。触られるのだって嫌だった」

 「俺の時は喜んで腰を振っていたじゃないか。一度抱かれちゃえば後は同じなんだろう?」

 そういったかと思うといきなり後頭部を抱き上げてディープキスをしかけてくる。 そのまま下半身から全ての下着を取り除くと蕾のあたりを優しくなぞりはじめた。

 すでに他の男を受け入れていたそこはあっという間に口を開き彼の指を受け入れた。

 「んん……」

 なぜ彼は今さら俺を抱こうとするんだろう? 俺が大庭のモノになることがそんなにプライドを傷つけられる事なのか?

 だとすれば、こんな曖昧な事をせずに殴って言う事を聞かせればいいじゃないか? 口では嫌だといいながら好きな人に優しく触れられて俺が感じないはずはない。

 確かめるように勃ち上がったものを、宥めるように扱かれると自分の蕾が綻んでいくのがわかる。

 最低だ。

 きっと彼は軽蔑しきっているだろう。

 金と自分の快感の為ならなんでもありの男だって。

 「いくぜ、息を吐けよ」

 「あ……あ、はぁ……っ」

 「いいぜ、このまま力を抜いてろよ」

 俺は思わず腰を浮かして力を抜いた……もうどうにでもなれだった。

 たとえどういう状態であれ好きな男に求められるそれだけでもいいじゃないかと。

 彼は今までないほどゆっくりと慎重に腰を進めた。

 ぐぐぐっと中に入り粘膜を抉る感じが伝わってくる。

 そのまま深く繋がると彼はすっと体重を預けてきた。

 彼の重さが、動かずにじっと俺の中で馴染むのを待っていてくれるのが、胸を締め付ける程嬉しかった。

 そのまま彼はゆっくりと俺の口を蹂躙し、貪ってゆく。

 口と蕾の両側が彼に征服されるのが、彼と本当に一つに繋がっているんだと心を震わせる。

 突き刺さったままの彼の存在が俺の中で苦痛より快楽を齎しはじめると彼にもそれが伝わったのかゆっくりと 動き出した。

 カリの部分を粘膜に擦り付けるようにゆっくりと抜き出し、また最奥までぐぐっと抉るという律動を繰り返す。

 「あぁ……」

 震える程の快感が俺を襲う。

 「感じるのか……感じてるんだな」

 佐久間は満足そうにそう言うと変化をつけてさらに俺を高みに上げようとする。

 弱く強く……

 激しく優しく……

 そして浅い場所でグラインドさせたかと思うといきなり奥深くに入り込み

 俺は快感の為に気が遠くなりそうだった。

 「どうだ、このまま快感の中で昇天させてやるぜ」

 角度を変えるように俺の足首をさらに高く持ち上げると続けていた迪送がさらに激しくなった。

 「いくぜ、このまま俺のモノになれ」

 俺は自分の中が痙攣しているのを感じて彼の形を確かめるようにぐっと締め付けると 再びそのまま快感の中で意識を飛ばした。

 だがそのとたん、顎を取って左右に乱暴に振られて一気に現実に引き戻される。

 「寝てんじゃねーぞ」

 俺は自分でも軽く頭を振って覚醒する。

 「ちが…う」

 気絶するまでやったのはどいつだよ?俺も協力したけどさ。

 「全くお前ぐらい寝てる時と起きてる時のギャップが大きい奴も珍しいけどな」

 欲望に潤んだままの瞳で俺を見つめている。どうやらいい意味ではないらしいと俺は思わず上目つかいに睨んでからぷいっと横を向く。

 「お前、確かにノンケで男は初めてだったよな?」

 あたりまえだ

 「きまってんだろ……」

 何が言いたいんだ?むかつくからはっきり言ってくれよ。

 「俺だってそうだ。男はお前がはじめてさ。ちょっとからかってやろうと思ったらこんな事になっていた」

 こんな関係になって後悔してる事をいっているのだろうか?

 「俺にも責任があるって?」

 快楽に弱いのはお互い様だから。

 「そうだ俺と寝てから男と恋愛するのはとんでもないけど、男と寝るのは悪くないって思ってるんだろ?」

 「どういう意味だよ」

 自分だって許嫁もいるのに、何をいってやがるんだか

 「児島の事、どう思ってる?」

 思わず俺は起き上がった?なぜ、今児島の話が出るんだよ。

 「この前、あの児島あかりが泣いたからちょっとびっくりしたけど」

 「え?あの時、お前いたのか?」

 「うん、みるくの調子が悪そうだったから戻ったんだ。二人の話を聞くつもりじゃなかったんだけど」

 「そうか?無理すんなよ。俺は知ってるぜ。お前、本当は児島あかりが好きなんだろう?あのこ生意気な女を思いどうりにさせたいとか思ってるんだろうが」

 あまりに図星で声が出ない。たしかに児島が生意気でいらつくほど、俺はいつか児島を俺の好きな様に 調教する妄想はしていたことは否めない。

 だけど、なぜ、佐久間がそれを知ってるのか?

 「ふん、じゃあお前ら相思相愛ってことかよ。ふざけんな」

 ?佐久間はいったい何を怒っているんだろう?

 思いっきり俺の首を右手で掴むとそのまま引き上げた。苦しくって息ができない。

 「それなのにどうしてお前は俺に思わせぶりな事ばかりしやがるんだ? 光司にやられながらなぜ、俺の名前なんか呼びやがるんだ?」

 俺は真っ青な顔をしているに違いない。

 こいつはあの時、ピアノを弾いていたんじゃなかったのか?

 「呼んだ?」

 憶えがないが、佐久間の名前をでかい声で連呼していたなんて、他人にセックスを見られるよりもっと恥ずかしい。

 「あぁ、みつぐ、みつぐって人の名前を連呼してんじゃねーよ。 あんまり呼ぶから無視できずに来ちまったじゃねーか。俺はもう、お前に振り回されるのはうんざりなんだよ」

 じゃあ、なぜお前はこうしてやってきて俺を抱いたんだろう?

 「もう、俺の視界から消えてくれよ」


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