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仲秋の名月

beautiful moon in September2


 そんな竜斗の様子に気が付いたのか雄斗がのしかかっていた身体から離れてじっと竜斗をみつめている。じっと見つめる雄斗に彼が怒っているのかと竜斗は思ったがそうではないようだった。

 「ちょっと外に出ないか?」

 何かを思い出したように雄斗はシャツブラウスをひっかけて立上がった。

 「え?」

 慌てて竜斗が服を着替えて追い掛ける。

 そういえば二人揃ってこうして目的もなく外に出るなんて初めてかもしれない。 そうはいってもやはり人目が気にならないといったら嘘になる。 例えば一緒に歩いてるところを同僚に見られても神崎なら恥ずかしくないだろうが、雄斗みたいに目立つ男と一緒なんてなんていい訳したらいいのだろう?

 まさか、いくら女顔とはいえ、父を騙した時のように彼女扱いすることなど できる訳もない。

 そんなことをしたら、雄斗を深く傷つけてしまうだろう。 そう思いながら足の早い雄斗の後を小走りでついてゆく。

 もう9時近い時間にも関わらず、辺りはうっすらと明るい。 繁華街のネオンの光もあるのだろうが、ふと見上げると真ん丸の月が出ていた。

 「そういえば、今夜は十五夜だな」

 独り言のように竜斗が呟くと、雄斗が振り返って戻ってきた。

 「仲秋の名月っていうやつじゃないか?なぁ、車出せよ。ドライブにいこうぜ?」

 竜斗に依存があるはずもない。

 「どこか薄がいっぱいある場所知らないか?」

 悪戯っぽい顔で雄斗が囁く。

 「ん、あるよ。秘密の場所が……ちょっと遠いけどね」

 エンジンをかけると雄斗はシートを倒してもう寝る体勢に入っていた。

 「帰りは運転するから頼むぜ」

 たしかに名案だ、しかし、雄斗の荒っぽい運転で眠れる程竜斗は神経が図太くはなかったが、 横になるだけでも違うだろう。明日は金曜日。あと1日だけ頑張ればゆっくりできる土日が待っている。

 雄斗の寝顔をみながら、いったいいつまで俺達は一緒にいる事ができるのだろうという考えがふと頭をよぎる。子供のいる夫婦だって離婚してしまうのだ。 雄斗に愛情がなくなったらそれが別れの時だろう。

 こんなに空気みたいに一緒にいるのが当たり前の日々から、永久の別れの時がくると自分は心の痛みとストレスに耐えられないかもしれない。もしかしたら女みたいにみっともなく雄斗に取りすがるのだろうか?

 しかし、即座に竜斗は否定する。いつか来るかもしれないが、来ないかもしれない……そんな亡霊のようなものに怯えて暮らすという事は、雄斗との別れが早くなる事があっても遅くなる事はないだろう。 今を精一杯生きるしかない。仕事も雄斗との生活も……。

 遥か彼方に目指す丘が見えてくる。雄斗は到着するまでこのまま寝かせておいてやろう。 全く、車に乗ると即行寝られる雄斗の神経が羨ましい。雄斗は寝苦しい夜など体験した事はないかもしれない。 竜斗が幼い頃何度か祖母に連れられてきた丘は、今でも一面に薄に覆われていた。見上げると 先程はすこしオレンジがかっていた月も冴えたような黄色に輝いている。

 「ユウ……」

 起すのは可哀想な気もしたがせっかくだから見せてやりたい。

 「雄斗……」

 「ん……」

 寝ぼけているのか首に腕をまわしてキスを強請ってきた。やさしくキスを繰り返すと眠り姫のようにそっと瞳を開ける。 月明かりで見る雄斗の顔はいつもより尚いっそう白く見え陶器のように輝いていた。

 「着いたのか?」

 「あぁ」

 「お〜〜、すげぇ綺麗な月だ」

 雄斗は寝起きよく飛び起き薄の原に駆け上がる。薄の穂が風に揺れさやさやと音楽を奏でていた。

 「まるで絵の中に入り込んだみたいだ」

 そういって竜斗の方に両手を延ばすと首を掴んで再びキスをする。

 「そういえばリュウってお金持ちの割にちゃんと年中行事をこなすよな?金持ちだからか? 俺の家は共働きだったから殆ど関係なかったな。あったのはクリスマスプレゼントとお年玉だけだぜ。 だから七夕の時竜斗が笹を買ってこいなんていうからちょっと驚いた」

 「実は祖母がね、ほら、俺が幼い頃母が亡くなって全部祖父母が面倒見てくれただろ。 祖母がそういうのを大切にする人で、ここにも祖母が連れてきてくれたんだ」

 「おばあさんは庶民だったの?」

 「うん、いつも食事は手作りで賄いの人や料理人が作るのとは違う味がした。 食べると安心できるような心も満腹になるような、だからユウにそういう食事を作ってやりたいのかも」

 冴え冴えとした月の下にいるというのに薄野の風に当たっても二人はそっと瞳を交わし暖かかった。

 丘の上で遥かな町並みを見ながら雄斗がぽつりという。

 「あとどのくらい一緒にいられるのかな?俺達……」

 雄斗らしくない台詞に驚いて顔をみる。

 「どう思う?」

 見返す雄斗の瞳はいつもの自信に溢れた不遜なものはなく頼り無げだった。

 「ユウさえその気ならずっと一緒にいられるさ」

 「でも、リュウはいつか結婚しなくちゃいけないだろ?」

 「ユウだって一人っ子じゃないか」

 「俺ん家はサラリーマンだからな。自由だけどリュウのところは違うだろ?」

 竜斗が不安に思っていた以上にユウも不安なのかもしれない。

 「ユウがいれば、結婚なんてしないさ」

 雄斗は少し切ない瞳でそっと竜斗の肩に頭をのせそのまま二人は無言で名月を見つめていた。 いつかは話さなければいけない自分の決心を近いうちに雄斗に話したい、 そう竜斗の気持ちが固まってゆく夜だった。

          とりあえず★おしまい★

 (とはいってもまだ続く……といっても怒らない?)  


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