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新しくてちょっと小洒落たレストランができると羽鷲竜斗(うしゅうりゅうと)は、そわそわと気もそぞろになってしまう。 たとえばどんな内装なのかなとか、どんな料理を出すのだろうとか気になってついつい社用車で通り過ぎる度に瞳の端で素早くチェックしてしまうのだ。 普段仕事で使う店の殆どは年令の高い相手にあわせて、名の通ったフランス料理の三ツ星やら、和食の店が殆どだ。 そう言った店の料理はどこか気取っていて緊張感がある。たまにならいい。でも殆ど仕事で 緊張する食事を強いられている竜斗としては、プライベートな時間までそんな場所にいきたくなかった。 第一、同棲相手の羽生雄斗がそんな気取った場所に行きたがる訳もない。 仕事がそれほど忙しくなかったこの夏までは竜斗が家ですべて食事の用意をしていたのだ。 だが、最近はそれもままならない。接待ゴルフや、出張などバブルの頃より減ったとは言え、 仕事の責任も増せばそれなりに付き合いも増えてゆく。 これが、日本社会の悪いところだとは思うのだが、こればかりは羽鷲の力ではどうしようもなかった。 簡単な食事と言っても限度がある。コンビニ弁当は論外だ。だとすればやはり気楽に入れる家庭的なレストランということになって、話が冒頭に戻るわけだ。 彼等が住む都心から少し離れたマンションの近くにこの秋小さなイタリア料理の店ができた。 『delizioso』といい、外装もシンプルで品がよく時期も時期なので、窓には小さなカボチャがセンスよく飾られている。 「もうすぐハロウィンか…」 きっとカボチャのスープやパスタがあるに違いない。 家に帰っても簡単な野菜炒めや、どんぶりものでごまかす日々にも正直飽きがきていた。 「どうしたため息なんかついて」 雄斗がそっと首筋にキスをする。今夜は一緒に寝ようと言う二人だけの合図。 いつもならそのまま、気紛れな雄斗の気の変わらないうちにと洗い物もそこそこにベッドに潜り込むのだが、 今夜はどうにもそんな気持ちになれない。 「リュウ何か言いたい事あるのかよ」 「明日は忙しい?夕御飯を近くのレストランに予約してもいい?」 一瞬二人の間に沈黙が拡がる。 雄斗は訝しげに竜斗を見つめた。 「嫌ならいいんだけど」 「何時?」 「7時で大丈夫?」 「あぁ、遅れても必ず行くから」 珍しく雄斗は文句も言わずにレストランで食事を取る事に賛成してくれた。 雄斗の携帯に地図を送ると時間に間に合うようだから、会社に迎えに行くと言う。送った地図なら不安なのだろう。 待ち合わせたカフェテリアに行って竜斗は驚いた。雄斗がお洒落していたからだ。ラフなスーツに 淡い品のいいシャツブラウスを身につけてますますいつもよりさらにイケメンに見えた。 少し前まで歳の割に幼い印象もあったのに、今日の雄斗のあまりの変わり様に竜斗は、眩しそうに上目使いで 少しだけ俯いてみせた。 「行こうか?」 「ん…」 考えてみるとこうして雄斗とデートらしいデートもした事がなかった。 並んで歩くと雄斗が先に行くものだから、どうしても竜斗は途中小走りになる。 「なにを急いでるの?まだ時間があるじゃないか」 雄斗は耳許で「だってみんなリュウを見てるじゃないか、お前が危なっかしいからだよ」 などというのだ。 思わず竜斗は吹き出した。みんなが見てるのは雄斗が良い男だからに決まっているのに。 「女房嫉妬する程旦那モテもせず、だよ」 「笑うな!第一だれが、女房だよ誰が!」 レストランについてもいつもの日常とは違って雄斗がじっと竜斗を見つめている。 「照れるじゃないか。あんまり見るな」 「いいからリュウ、まわりにきょろきょろしてないで俺だけを見ていろ、いいな?」 そんな事を言われるなんて思わなかった。 二人は無言でハロウィンのスペシャルだというディナーを次々と平らげる。 美味しい食事は心も暖かくする。 「たまにはいいね。外でのデート」 「リュウが忙しそうだったから特別だよ、俺は家で二人で食べる方が落ち着く」 「気を使わせてごめんね。でもしばらく、忙しいんだ。買い物する暇もないし、時々ここで待ち合わせてもいいかな」 「仕事なら仕方ないよ。でも、今夜は…わかってるんだろう?」 そういって悪戯っぽく笑う雄斗に、カボチャのケーキを注文していた竜斗はどきっとする。 こんな顔をする時は、碌な事がないんだよな…と心の中でぼやきながら、相手が雄斗ならなんでも許してしまいそうな自分が恐かった。 【FIN】
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