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ハロウィン番外1 |
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街中の色合いがそろそろ枯葉色に変わりはじめるこの季節。 城の許可をもらって堂々と運営できるようになった村上志月のホストクラブにも すっかりオレンジと黒ばかりが目立ち始めていた。 「ハロウィンなんて興味ないよ」 店内にぶら下げられた蝙蝠の飾りを手に取りながら志月は気乗しない様子で ため息をついた。 「でも、志月さん、ハロウィンってイマドキの女の子には受けがいいんですよ」 帳簿を手伝ってくれる中堅ホストのマサキが帳簿から目も離さずに呟く。 「そんなもんか?」 ホストクラブにばかり入り浸っていれば、志月を独占したがる城の機嫌が悪くなるのは目に見えている。 以前の志月なら所詮、自分には手に入らないものだと自分の店を持つこと等考えてもみなかったけれど、 今は恋人の城がまるでおもちゃでも買い与えるようにぽんとお金を出してくれたから今までにない豪奢な店ができあがった。 でも、正直いってホストクラブの経営は面白くて仕方ない。 慣れた職場だから、客の気持ちもホスト達の望んでいることもわかるし自分の力で客を増やし金を回し 一気にこのエリアの人気ホストクラブに登り詰めた。 こんなに充実してることは、本当に久しぶりだ。 客はちやほやしてくれるし、工夫しだいではお金が面白いようにまわってくるし、城のおかげで 内装に力を入れ若く知性的なホストを揃えた結果、客層も他に例がみないくらい上客ばかりだ。 有名人のお嬢さんや奥様が旦那を伴っても来れるような場所になりつつあり名称もホストクラブではなく セレブサロンに最近変更したばかりだった。 「最近ハーフの子や、日本語の達者なイギリス人も入れたのでまた、雰囲気が変わりましたよ。 そういった方からの御要望なんですよ。ハロウィンに仮装パーティをやろうっていうのは」 マサキがやっと帳簿から目を離して志月を見つめてにっこりと微笑む。 世の中には顔の整った男は数多くいるが、魅力的な笑顔を兼ね備えた者はさほど多くはない。 マサキもそんな青年だった。もっとも志月からみればまだまだ霞んでみえるのだが。 「わかった、マサキに任せるよ。パーティで赤字を出したりしないように気をつけてくれればいいよ」 「もちろん、志月さんもいらっしゃるんですよね?」 「え?俺?」 どうしようかな……。 相変わらず城は殺人的なスケジュールをこなしているから、あまり志月とゆっくりする時間等 ないけれど、それでも自分だけが仕事絡みとはいえ、パーティを独り楽しむのは気が引けた。 迷っている志月にマサキが声をかける。 「妙高寺さんも誘えばいいじゃないですか?」 「だけど、忙しい人だからな」 「誘ってだめなら、志月さんだけでも参加されるといいでしょう?志月さんが参加しないと 盛り上がりませんよ。お客さまにも志月さんが、参加されるかどうか聞いてくれって毎日せっつかれて いるんですから」 確かに、黙って参加するよりいいだろう。城が忙しいのは自分の所為ではないのだから。 その夜、遅くなったにも関わらず、志月を熱く求めてきた城に志月は話を持ちかけた。 「僕の店でハロウィンの仮装パーティをやるんだけど、城は来られる?」 優しく志月の髪を撫でていた城は上機嫌で囁いた。 「いいよ、志月がもう一ラウンドつきあってくれるなら」 まだ、やれるのかよ。 志月は小奇麗な顔立ちをして性欲なんかありませんと澄ましたように見える 城がこんなにタフだなんて自分しか知らないんだろうなとため息をつく。 実際、若い自分より30才を超えた城の方がずっと旺盛なのだ。 優しい愛撫とは裏腹に、激しい城の腰使いに最後にはいつも志月はふらふらだった。 いつか、城が満足して寝入ったら今度は自分が上になりたいなどという野望も 今はもう、すっかり諦め気味なのだ。 いつも、気絶するように先に寝入ってしまうのは自分の方で、なんと城はその後始末までしてから寝ているらしい。 いつかいつかと思いながらも、城と繋がった腰をゆらゆらと揺らされて「志月……好きだよ」なんて甘い言葉をどこか遠くで聞きながら、 やっぱり志月は今夜も朝までの記憶がなくなっていた。 ハロウィン当日。 店内はそれこそ息もできないほど込み合っていた。 厨房を手伝おうと思っていたのに、マサキ達にドラキュラ伯爵の衣装を身につけさせられた志月は 次から次にやってくるVIPの対応に追われてそれこそもみくちゃだった。 話しには聞いたことがあるというような、有名人が次々と押し寄せてホストも客も一種のトランス状態になっていた。 そのピークに達した時、店内にちょうど来日中のハリウッドの有名女優がやってきたのだ。 無論仮装はしていたが、店内に鳴動がさざなみのように拡がった。 志月は一瞬、動けなくなった。なぜなら一緒に彼女をエスコートしてきたのは、小悪魔の格好をした城だったからだ。 二人はぴったりと寄り添っている。 「可愛い〜〜!だれ?あれ」 女の子達の囁き声が聞こえてくる。 それは、女優より15cmほど背丈が低い城に対して言われているのだろう。
続く
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