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なんとなく心に引っ掛かるものを感じながらも、半島の先端に建てられたホテルの屋上の ヘリポートに直接、城にそっと腰をおされるようにエスコートされて俺達は降り立った。 先程の副操縦士と同じ制服を身につけた若い男が近付いてきて、そっとクリスタルグラスに入った シャンパンを差し出す。 「ありがとう」 城は慣れた手付きでグラスを受け取るとひとつを俺にすっと差し出した。 「ここは、日中は、彼等がいるが、夜はこの建物の中は二人だけだから安心していい」 「彼等って?」 「普段、ここは妙高寺家のSPの訓練施設になっているんだ。今回の旅行は彼等の演習も兼ねている」 それを聞いて、期待していた感情が多少萎んでいく。別にひがんでいるはずはないのだ。 もともと、違う世界に生きている人なのは自覚しているのだから。 どうして素直に、すごいと思えないのか?城の立場を認められない自分の矮小さが嫌になる。 寂しいのは、城のまわりの恐神などの人間が知っていて、自分が何も知らされていないことだった。 もし、できることなら、自分が城を守ってやりたいのに、これじゃあ逆に迷惑をかける存在なのではないかと 拗ねた気持ちが、浮かんでくる。 「疲れた?」 城が、優しい笑顔で俺の顔を覗き込んできて、少しだけ気分が高揚する。 こんなに何もかにも持っている城が自分を必要としてくれるそれだけで本当は充分のはずなのだけど。 「庭を案内するね」 そのまま、ホテルの中には入らずに、外に続く螺旋階段を降りて庭に出た。 整った西洋式の庭を想像していた俺は少しだけ戸惑う。 自然を利用した、純和風式の庭園だった。 「こっちにおいで」 庭を通り過ぎてどんどん進んでいく城のあとを追いかけると、そこは竹薮に隠れた小さな庵があった。 「背後は竹林で、他は全部海だ、私と志月以外だれもいない」 竹林の先には半島の先端があってその先は海原が拡がっている。本当に誰もいないようだとほっとしたとたん、振り向きざまに城に顎をつかまれてキスをされた。 思わず俺も、城の後頭部を仰け反るように掴むと、噛み付くように激しくキスを返す。 二人だけなのだと思うと、つい、大胆になり脇腹から差し入れられた城の腕にさらに興奮が増して、 自分からシャツブラウスの肩を肌けた。誰もいないくるはずのない場所という状況が俺を大胆にさせる。もっと城に欲しがって欲しかった。城の長くて綺麗な指が、俺の腹筋の位置を確かめるように 撫でてくる。ただ、それだけで俺は、身体の奥から熱いものが吹きこぼれそうな感覚にとらわれた。 熱い……そして城がもっと欲しい……。 前方の竹林で何かが動いた気がした。 まさか、狸か猪か? しかも微かにかさかさと笹の触れる音がする。 両手を突っ張って慌てて城から離れた。 「どうした?」 熱い吐息の中に微かに苛立ちが混じる。 「だ、だれかいる」 「いるわけがない。有刺鉄線を張っているから、子猫くらいなら入れるかもしれないが」 「でも、いるんだよ」 俺の上擦った声に「仕方がないな」と彼が立上がった時だった。 「城さま」 竹林から姿を現したのは、先程の副操縦士だった。 「正臣(まさおみ)…」 城が叱るどころか、嬉しげにその男の名前を呼んで声を上げる。 「申し訳ありません。お取り込み中、不粋だとは思ったのですが、至急の連絡が入りまして」 そういうと城の耳許にキスをするばかりに近付いて何かを囁いている。 「わかった、ちょっと恐神に詳しく経過を聞こう。正臣、すまないが、志月の相手をしていてくれないか?」 「待って、俺はひとりでいい」 そういう俺の返事も聞かず、城は竹林の奥に消えた。慌てて俺が後を追おうとすると、 「お待ち下さい」 とその副操縦士に制止された。 「なんだよ」 「ここで、そのままお待ちいただけませんか。城さまから御説明がされてないようですが、実は敷地内には簡単に御説明できないほどの、侵入者用のトラップが仕掛けられております」 そう言われると、悔しいが一歩も歩けない。 「一人でいい」 「そういうわけには参りません」 「俺は一人でいたいんだよ」 そういって怒鳴ると、彼はまるで幼子を相手にするような小馬鹿にした様子で肩を窄めた。 「子供だな」 仮面を剥いだように突然そいつの物言いが乱暴になる。 「城に可愛がられてるからって調子に乗るな。おとなしく言うことを聞くんだ」 「お前、何様だよ」 そういったとたん、彼が俺の顎を掴んで彼に向けさせた。 「何様?私も、妙高寺家の血筋だよ。恐上の血を引いている」 すっと俺の血の気が引いた。どうしてこんなに妙高寺家の血筋を引くものが多いのに、 城がその跡目を継いだのだろう。 「城に聞かなかったか?実際この妙高寺家を牛耳ってるのは恐上一族だ。 妙高寺の名を継ぐものはお飾りに過ぎない。実際前の当主の妙高寺秀次も恐神の婿養子みたいな者だったしな。秀次も恐神がいたから、城にのめり込んだのだろう」 そんな呑気な言い回しに俺は頭にかっと血がのぼる。 「それで城は人身御供かよ」 「そんなつもりもなかったのだが、実際はそうなるかな?そして今度の人身御供はお前というわけか」 妖しい光が正臣の瞳に宿った。 「城は綺麗過ぎて、華奢で俺の趣味じゃないが、城の趣味は悪くない」 そういうが早いか、徐に俺を庵の畳に押し倒した。 「やめろ、やめろったら」 「可愛いな……もっと本気で暴れてみろよ」 鳩尾を、ぐっと膝で押さえ付けられて俺は暴れるどころか息もできなくなりかけていた。 「……正臣」 遠くで城の声がする。こんな情けないところを城に見られたくない。だが、すぐに、ばたっと障子が開いた。 「志月…」 一瞬、声につまったような城に 「ちょっと二人でじゃれていたんですよ」 正臣が、まるで別人のようにいけしゃーしゃーとそんな事を言いやがるから、俺もやっと立上がって彼を睨んだ。 「正臣、志月が可愛いからって手出しをするな。これは私のモノだからな」 城は、まるで冗談でもいうように明るく彼の尻を叩いた。 「存じております。どうぞごゆっくりお楽しみください」 「夕食は、そちらで食べる。6時には用意しておくように言ってくれるか?」 「かしこまりました」 そうって下がっていった正臣を俺は最後まで睨み付けた。 「志月、そんな顔をするなよ。だから前にもお前が可愛いからからかうんだって言っただろ」 城はそういって嬉しそうにキスをする。 「ちっとも、可愛くないよ」 「そんな事はない、自覚もないところも含めて志月は可愛いのさ」 再び懐に差し込まれる手。城の巧みな愛撫に俺は釈然としないまま、そっと瞳を閉じた。 FIN |