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本当は忙しい毎日を送る城に、たまの休みくらいゆっくりして欲しい。だけど、このマンションにいれば、誰かが勝手に押し掛けてくるのは目に見えている。 まず、恐神だ。優しそうな恋人を連れていちゃいちゃするだけなら、他でやってくれよといいたい。 それに触発されて、皆の前で城が、変な気を起こさないとも限らないし。 そうなんだ、城はたとえ、どんなに人がいても平気でことを起こせるやつなのだ。 俺は時々思う。どうして城には、そういう恥ずかしいという概念が著しく欠如しているのかと。 抱かれることにあんなに恐怖感は感じるくせに、ことモラルに関していえば、殆ど一般常識から離れている。 それは、幼い頃からのトラウマになった出来事と関係があるのかもしれない。俺だってどちらかといえばインモラルだという自覚はあるのだ。だけど、城の場合は、性に関してモラルの欠片も感じられない時があって、驚いてしまう。 それは、ともかく、せっかく休みが重なるのだからと、俺達は、殆ど人が出入りしないという閉ざされた妙高寺家所有の半島で、休日の5日間を過ごすことになった。 そこの半島の狭い入り口に大きな門があり、そこ以外からは人は簡単に立ち入ることができないという。 飛行機のタラップを踏むとすぐ近くに、自家用のヘリが用意されていて、俺達は恐神に促されてその巨大なバスかと見まごうヘリに乗り込んだ。軍用ヘリに使っている国もあるという 特別なヘリだった。 中に入るとそこも別世界で、轟音さえ我慢すれば中はシティホテルのスイートにも引けをとらない豪華さだ。シルクの緞通がきっちりと敷き込まれ、倒せばベッドにでもなりそうな巨大なソファや 重厚なマホガニーの家具はどれも妙高寺家の家紋である鶴の紋様が見事に彫り込まれている。 操縦士と副操縦士が、丁寧に挨拶してくれるが、俺にとっては、どうも面映い。 グレイの制服に身を包んだ副操縦士が、城の好きなフルーティな薫りの紅茶を入れて、汕頭刺繍のティコーゼに包まれた銀のポットをそっとテーブルに運んでくれる。 「ありがとう」 にっこりと微笑む城に、その副操縦士の頬がかすかに弛んだのを俺は見逃さなかった。 ゆっくりと口元に繊細なジノリのカップを運ぶ城を見ながら、満足そうにゆっくりと会釈すると 「どうぞごゆっくり」 と会釈してから、俺を見て意味深に微笑んだ。 なんなんだあいつは!なんか妙に挑戦的じゃないか? 確かに背も高くて彫も深くて、副操縦士なんかやってるからには、頭もいいし腕もたつんだろう。 だけど、俺に対して失礼な態度に、もやもやした気持ちが沸き上がる。 「なんだ、あいつ。城に気があるんじゃないか」 「ばかだな……志月が可愛いからからかわれたんだろう」 そういって、城は持ってきた書類に目を通している。忙しいのは分っているけれど、 相手にされていないような気がするんだけど。 書類を捲る城の長い綺麗な指をじっと見つめていたら、膝で俺の膝を刺激してくる。 「ちょっ、やめろよ。こんなところで」 「志月が、物ほしそうな顔で見てきたんじゃないか」 書類から顔を上げずにさらに露骨に悪戯してくる城の膝から逃れようと、俺が立上がった時だった。 「もうすぐ到着しますので、シートベルトをお締め下さい」 はっと気がつくと、先程の副操縦士が、意味ありげな視線で口元だけ微笑んでいる。 つづく |