思い出を忘れたくて

大晦日番外


 「本当にいいのか?」

 俺はもう一度振り返って沢田を見た。

 「あぁ」

 沢田はいかにもスポーツマンらしい清清しい笑顔ですっと右手を上げる。

 後ろ髪をひかれる気持ちで俺は家を後にした。 大晦日は死んだお父さんの実家、元旦はお母さんの実家で過ごすのが俺達の年中行事だ。 親戚が集まってお年玉の交換会になるからいくら親しくしていても沢田に来いとはとても言えない。 連れていったって親戚だって困るだろう。だから沢田も来るとは言わないのだ。

 「大丈夫、おじさんの家が木更津にあるから、明日はそこにいくよ。 気にしないで行ってこい」

 沢田は俺が言いずらそうに正月の予定を聞くとそういった。

 実はずっと沢田は高校サッカー大会で年末は留守がちだった。 家に帰ってもすれ違いが多く良く考えるとクリスマス以来俺達は殆ど一緒に過ごしていないのだ。 前はそれでも夜中だろうが、明け方だろうが、俺の都合なんか殆ど関係なく沢田の欲望を受け止めていたのだ。

 まぁ、俺が本気で抵抗しなかったっていうのもある。

 だって、最初はくすぐったりしておふざけみたいに触ってくるだけなので「よせよ〜」 などと身を捩っていたら「拓……好きだ」なんて甘い声で耳許に息を吹きかけながら、敏感な部分を 刺激してくるのだ。

 それはだいたいが乳首だったりして、つい「ん……ふ……っ」なんて喘ぎ声を漏らしてしまう。

 そうなるともうなし崩しだ……。結局もうシーツを取り替えなくればいけないくらい激しく愛しあってしまう。つまりやりすぎだっていう自覚はいるけれど、結局はぶつぶつ独り言を言って終わりになってしまう。

 「ちゃんといってみな?聞こえないぞ」

 沢田はにやりと笑ってみせる。悔しいけれどその顔は男っぽくって心底羨ましい。

 俺も沢田みたいな、男らしい男に生まれたかったと思う。

 

 

 俺はおじいちゃんちの口取りをつんつんと突きながら、頭の中は沢田でいっぱいだった。

 「拓!もっと食べろ」などと叔父や祖父にからかわれながら、いつもの年の瀬と違うと気がついていた。

 いつもなら、おじいちゃん達と一緒に紅白を見ながら正月にもらう予定のお年玉の皮算用をしているところなのだ。

 今年は何を食べても何を見ても胃にすとんと落ちて来ないような気持ちになった。

 沢田……お前は今、何をしてるんだろう?お前は俺と一緒じゃなくても淋しくないのか?

 俺みたいに何かどこかに忘れ物をしたような気持ちにならないのか?

 そう思うと俺はいてもたってもいられなくなった。

 「じいちゃん、俺友達と初詣に行く約束してる。行ってもいいか?」

 おじいちゃんは、黙って頷いて「ほら!」とお年玉をくれた。

 俺は黙っておじいちゃんに会釈をすると、これ以上早く走れないという勢いで駆け出した。

 何度もつんのめって転びそうになりながら……。

 11時……家を見上げるとすでに灯りは灯っていなかった。

 それでも合鍵を出して俺は急いで沢田の部屋に向う……。

 一刻も早く沢田の顔が見たかった。それなのに……沢田の姿はどこにもない!

 ばかやろう〜〜〜!好きだといったのは抱く為だけか?

 結局だれか他の奴と初詣にでも出かけたんだろう? 俺は不貞腐れて自分の部屋で寝ようと自室の鍵を開けた。

 「……!?……っ!」

 どうして……俺のベッドの上に……沢田が寝てるのだ。 沢田の奴びくっとして飛び上がった。

 「古城……どうして帰ってきたんだ?」

 「お前こそ、俺のベッドで何してるんだ」

 「……まぁ……ナニしてるんだ」

 沢田はバツが悪そうにしながらも俺の腰をぐっと引き寄せた。

 「古城……帰ってくるとは思わなかったよ。でも嬉しかった……」

 そういって軽くキスをする。

 このままなし崩しにエッチに突入か?俺はちょっと期待を込めた覚悟をした。

 それなのに沢田はそれ以上の事をしようとしなかった。

 俺が不思議そうな顔をして沢田を見つめると沢田の奴、ちゃっかり出かける用意をしている。

 「ど、どこかに行くの?」

 「あぁ、初詣に行こう、部屋にいるとエッチしたくなっちゃうしな」

 沢田がそういって外に出たので俺は慌てて追い掛ける。その俺の背中に除夜の鐘も追い掛けるように 鳴っていた。

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