思い出を忘れたくて

正月番外


夏祭りに一度訪れただけだから知らなかったが、元旦の神社ってこんなに込み合っているものなのかと 俺は心底驚いた。

 これじゃあまるで、満員電車と変わらない。

 沢田がまるで迷子を連れ回すように俺の腕をぐっと握っているから、俺は何度も他の人にぶつかって 思わず会釈をしなくてはいけない羽目になる。

 賽銭を投げ入れてやっと鳥居に戻ってくると時刻は1時をまわっていた。

 「古城……寒くないか?」

 沢田が気づかってくれるのは分かるが、俺は幼子じゃねーちゅーの!

 「寒くない!それより手!人前で握るなよ……」

 男同士なんだ、ちょっとは人目を気にしろよ。

 案の定、向こうからやってくるのは、東海林と結菜ちゃんだった。

 あのクリスマスをきっかけに東海林のやつ、なんとか結菜ちゃんをデートに誘うのに成功したらしい。 俺には一応、沢田がいるけど、やっぱり人のモノになるとちょっぴり悔しさが込上げてくる。

 「俺がキューピットみたいなもんだからな!あとでなんか奢れよ!」

 そういって脇を肘でつつくと「あぁ……」 なんてすっかり頬が崩れてやがる。く〜〜〜!

 「やっぱり、古城クンは充のモノになっちゃったのね……」

 ため息とともに結菜ちゃんが呟く。

 おいおい!いつから俺が沢田のモノになったよ?第一なんで俺がモノなわけ?

 悲しくって涙もでねーよ。

 「おい、結菜!色目なんか使ったら承知しねーぞ」

 沢田は余裕の笑みで俺の腰を引く。

 だ、か、ら〜頼むから人前でやめてくれってば……。

 そう思って身を捩ろうとした瞬間驚く程乱暴に俺の腰を結菜ちゃんの方に突き飛ばした。

 「あっぶねーな!」

 俺が沢田を睨もうとすると「古城を頼むな?家まで送ってやってくれ」 そういって東海林達に俺を押し付けた?

 はぁ?俺を送っていけって?女じゃねーってんだろ?第一俺達まだ初詣に来たばっかりじゃねーか?

 「おい!」

 沢田はすっと人込みの中に消えてゆく。

 「あ、ありえねーし……」

 本当にひたすら呆然と立ちすくんでいた俺を東海林が優しく肩を抱く。

 「何か急用だろ?俺達が送っていってやるから心配すんな?な?」

 「結構!けっこうコケッコウ!」

 ばっかやろう?何が悲しくってカップルに送っていかれなくちゃならないんだ?

 俺はむちゃくちゃに走り出す。

 せっかくじいちゃん家から戻ってきたのに。エッチもしやがらねーで

 沢田の奴、沢田の奴、沢田のやつぅ〜〜〜〜!!!!

 すると突然人込みの中からいなくなったはずの沢田の姿が遠くに見えた。 なんかすげ−イケメンとこそこそ話してる。

 遠くからみるとイケメンと沢田の方が似合いのカップルに見える……

 あぁ〜俺完全に沢田に毒されてる……そうそうホモがそのあたりに転がっている訳がねーな?

 ……と思ったら、なんと沢田の頬にその男が 唇を寄せてキスをした。

 ……?……うそ……?……

 沢田は一応その男を払うようにしてるが その顔は満更でもなさそうだ。

 ちょ−ムカツク!ありえねーし!

 なんでわざわざじーちゃん家から帰ってきた俺を突き飛ばして家に返そうとしたんだろ?

 浮気する気で帰したのか?

 それとも俺が浮気なのか?

 俺は思わず後ずさった。

 だけど、同時に無性に腹が立ってきた。

 「沢田!」

 俺は駆け出し沢田をでかい声で呼びながら沢田に殴りかかった。

 「こ、古城……帰ったんじゃないのか?」

 現れた沢田のでかい腕に引っ張られ俺はひょいっと担がれた。

 「な、なにしやが……」

 「帰れっていったのに……ここでふらふらしやがって」

 沢田はさもいまいましそうに呟く。

 人気の少ない大木の陰に足をばたつかせて俺をどさりと落とすと「ここにおとなしくしてな」 そう言って立上がる。

 ところがそこに沢田と一緒にいたらしい男数人が俺を取り囲む。

 「こんなところに可愛い子猫ちゃんが隠れてる……」

 「触るな!俺のだ」

 「え〜〜〜?ミツルちゃん恋人を作ったの?」

 「うるせーよ。てめーに関係ないだろ?」

 「あたしが一番ミツルちゃんの恋人に近い男と言われていたのにねぇ〜」

 なんとそのガタイのいいイケメン野郎はオネエ言葉で話だした。

 「このごろ付き合いが悪くなったのはそういう訳だったのね?さっきはいきなり人の顔を見て逃げ出すし」

 沢田は少しだけ不安そうな顔で俺を見た。

 「俺、ただの下宿先の大家の息子ですから」

 俺は慌てて言い訳じみたことを言ってしまった。

 「そうなの?でもミツルちゃんはそう思っていないみたいね。」とその男はふふふと笑う。もしかしてシナを作ってないか?

 沢田がぎろりと男達を睨み付けた。

 「おぉ〜怖い怖い。男の嫉妬程世の中に怖いモノはないわ。でも許してあげる。正月から目の保養をさせて頂いたわ。またね子猫ちゃん」

 そういってオネエ言葉の一番イケメンが俺に投げキッスをしてきた。

 背筋に寒いものが走る。

 沢田は少しだけバツの悪そうな顔をしたが、「帰るぞ」そういってまた、無理矢理俺の手を引っ張った。

 帰り道、沢田は何も言い訳をしなかった。俺も何も聞かなかった。

 沢田がこんなに困った顔をするのを見ることがなかったからだ。

 俺はそっと沢田の指先に触れて沢田のごつい手を握ろうとした。

 だが、逆に沢田は俺の手を力強く握り返してきた。

 「今夜は二人だけだな?」

 俺はいつもなら反発心がムクムク擡げてくるのだが、今日は黙って頷いた。

 

 今年もよろしくお願いします(ぺこり)

 

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