思い出を忘れたくて

Get memories out of mind 9


 心地よい揺れと暖かさで俺は意識を戻しはじめた。

 身体の節々は痛かったが、それ以上に安心感があった。 完全に目覚めると今度は驚いた。俺は沢田の背に負ぶさっていたのだ。

 なぜか、もう家が近い。もしかして電車の中も背負ってきたわけじゃないよな?

 俺は羞恥のあまり背中で固くなった。

 「目が覚めたか?」

 「……」

 強姦した相手にいったい何を話せばいいのか。第一だるくてそのうえ沢田の声はドスが効いていてとても何か言えるような雰囲気ではない。

 体全体がけだるくて、あちこち痛くて俺はそのまま脱力したように背負われていた。 家の灯りが見え、玄関まできて彼は俺を背負ったままチャイムを押す。

 出てきた母は酷く狼狽えた様子で彼を招き入れた。沢田はそのまま俺をベッドまで運ぶと 挨拶をして帰ろうとした。

 余計な事にお母さんときたら、彼を引き止めている。

 「まぁ、沢田君下宿なの?よかったら家で晩御飯食べていったら? 泊まっていってもいいのよ?」

 「じゃあ、そうさせていただきます。お電話お借りします」

 お前……携帯持ってるだろう?

 それになんで泊まるんだよ。俺は認めねーぞ。

 でもお母さんと一緒に寝かせるわけにもいかねーし。ってうことは まさか俺の部屋で寝るつもりじゃないよな?

 いろいろいってやりたい事は山々だが口を開こうとしてもうまく動かない。 いつもはおしゃべりの俺だがなんていっていいのかも解らない。

 結局なぜか知らないが沢田は俺の部屋にそのまま居座りやがった。もともと無口っぽい沢田と俺は拷問のような重苦しい時をやり過ごす術も知らない。 地球の裏側くらいまで俺と沢田の気持ちは離れている。すぐ近くに沢田がいて、沢田の吐息がこんなに近くに聞こえるのに。

 それにしても沢田はなぜ、ここにいるんだろう?

 それに輪をかけてわけわかんね〜のが俺は強姦野郎となぜ同じ部屋で寝なくちゃいけね〜んだ?

 俺はどうやら熱も出てきたらしく、沢田はお母さんに尋ねながら身体を拭いたり額にタオルを乗せたりしてくれる。

 なんか逆に滅茶苦茶居心地が悪いんですけど……。早く帰れよ、頼むから帰ってくれよ。

 お母さんが部屋を出ていった後、俺が薄目を開けるとアイツが俺を覗き込んでいた。

 「軟弱だな……このくらいで熱なんか出すか……」

 『うるせ〜よ』と反論してやりたいが頭も働かないし、口はまるで石膏で固められたように動かない。 ただ異常に寒かった。

 「寒い……」

 俺がそう呟くとアイツはおれのベッドにいきなり入ってきて俺を包み込むように抱いた。 あいつの体温が直に伝わってきてすごく暖かかった。強姦した男に抱き締められて安心するって俺の神経どうなってんの?

 とにかく俺は熱と痛みで今夜は寝られそうにないと思っていたのに、うつらうつらしたなと思って気が付いたら朝だった。

 その上目覚めた時には沢田はいなかった。昨夜のアレは俺の熱にうかされた妄想だったのだろうか?

 昨夜程の痛みもなく、俺は熱も少し下がってぼ〜っとしていた。

 お母さんと沢田が一緒に部屋に入ってきて俺の額に手をあてる。

 「ごめんなさい、これから仕事ででなくちゃいけないの。沢田君今日はクラブあるんでしょ?」

 そうだよ。決まってんだろ?スポーツ部は土日もあるのが普通だ。そんな引き止めるような言い方やめてくれよ。

 「いや、大丈夫です。俺、もう少し様子をみてますよ」

 なんで?いけよ、サッカー部お前はエースだろうが……。

 「そう?悪いわね。じゃお願いするわ」

 おい、おい、おい!見ず知らずの奴に病気の一人息子をお願いするなよ!昨日背負ってきたから親しいと勘違いしてるんだろうな。まったく脳天気な母親だよ。こいつは俺を強姦したんだぞ?それで俺は熱がでたんじゃないか!

 あぁ、だけどそんな事言える訳ね〜よな。母親に……。

 ま、まさか沢田のやつ、俺に念入りに制裁を加える気か?勘弁してくれよもう……俺は自分の不幸に頭痛がしてきた。

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