追憶の薫り

Muse over past memories  7(沢田視点) 


 俺は身体だけで満足だ……そう思い込もうとしていたけれど、俺と古城の間には 何の精神的な繋がりもない。そんな当たり前の事が俺をこんなに傷つけるなんて……。

 いくら俺が古城の様子を心配したって電話の1本かけられるわけでなし、 友人に様子を聞けるわけでもない。

 俺はどうしたらいいのだろう。古城は大丈夫なのか? なぜ、抱きかかえられるようにして保健室に行き、母親に連れられてそのまま家に帰ったのか? 俺が心配したって仕方ないのだが俺はいてもたってもいられなかった。

 だが俺ができる事といったら早朝、飯も喰わずに古城のマンションをただ見上げるだけ。 それなのに、いつまでたっても古城は出てこない。もしかして今日も休むのか?

 そう思った時だった。昨日古城が乗った青いキューブが駐車場から出てくる。 古城が嬉しそうに車に乗っているのが見えた。

 なんだ元気そうじゃねーか。ただの寝坊かよ?それで母親に車で送ってもらおうなんてやっぱり軟弱なやつだ。

 俺は苦笑しながらもほっとして歩き出した。今日は遅刻だが仕方ないだろう。程なくして車が俺の側で止まる。

 「遅れるでしょ?乗っていったら?」

 古城の母親……か?俺の制服を見て同じ高校だと思ったんだろう。なかなか親切なやつだ。 古城の人を疑わない素直さはこの母親の育て方の賜物なのだろう。

 古城に目を向けて見れば露骨に嫌な顔をしているが、それが俺のいじわるな気持ちをまたまた快く刺激する。

 「あ、すいません。じゃ、遠慮なく……失礼します」

 古城を見るとバツが悪そうに窓の外なんかみてる。完全に嫌われちゃったな…… 当たり前だけど。自分の望んだ事なのになぜか胸の奥が疼く。

 だけど古城はにやにやしてるより怒った横顔の方がずっといい。綺麗な鼻の形が 手にとれる程近くでじっくり見つめられる……俺は少しだけ幸せだった。

 そんな小さな幸福もその日の6時限目の美術の終りに呆気無く消し飛んでしまう。 美術準備室の脇の廊下で結菜と古城が親し気に話してるのを聞いてしまった。

 「古城クン、今何を描いてるの?」

 よくは聞こえないが古城と結菜が肩を並べるようにして話をしている。 二人が並ぶとあんな軟弱男でもお似合いのカップルに見える。少なくとも俺と古城よりは ずっと自然なカップルだ。俺の胸が引き絞られるように痛む。そんな優し気に微笑むんじゃねーよ。 そう叫びたかったが、俺は足が動かなかった。

 「古城クン……好きなんだ……ところも……」

 結菜の奴ちゃっかり告白してやがる。ちくしょーもう、ダメだ。

 それでも小心者の古城はそれでもあたりをきょろきょろしてるのがなんか笑える。

 「……毎日古城クンが…………がみえるんだ」

 「そうなんだ……」

 それでもやっぱり二人の間には甘い空気が流れてる。ところどころ聞こえてくる会話を ドア越しに聞きながら俺は絶望のどん底にいた。

 「実はそれから時々、こっそり古城クンを見ていたんだ。知らなかったでしょ?」

 「うん」

 「もし、よかったら私が古城クンの最初の人物画のモデルになりたいな……なんて」

 「いいよ」

 ばかやろう〜勝手に仲良くしやがって……俺は自暴自棄になりかけていた。古城……お前が女と初体験を済ませる前に俺が男の味をたっぷりと味合わせてやる。 こんどこそ、二度と仏心は出さないぞ……と

 BACK  WORK TOP NEXT