思い出を忘れたくて

Get memories out of mind2


 あれは、多分一ヶ月くらい前だったろうか?

 俺の通う進学校では滅多にない事なのだが、俺はトイレの個室に連れ込まれてカツ揚げされそうになった。

 突然やってきた生理現象を、どうしても我慢できなくなってしまい、慌てて入った普段使われる事の少ない人気のないトイレで、俺は偶然見てはいけないものを見てしまったのだ。

 そう、それは3人の3年生が煙草を吸っているのを……。

 まずい……と思って慌てて立ち去ろうとしたが、あっという間に目付きの悪い3年生に退路を塞がれてしまった。 怯える俺の顔を、彼等はさも楽しそうに見据えながら少しずつ間合いを詰めてくる。 そして抵抗らしい抵抗もさせてもらえずに、そのままトイレの個室に連れ込まれた。 3人の先輩に取り囲まれてもう、絶体絶命だと思ったまさにその時だった。たまたま、そこを通りかかったらしい背の高いふてぶてしい男がぬっと姿を現した。それが、沢田だった。

 「なにやってんだ?おら!」

 180cmを軽く越す身長と厚い胸板。がっちりした肩幅、きつい目つき。両手をズボンのポケットに ぐっと突っ込む様は、どうみても進学校の優等生というより、工業高校あたりの不良学生にしか見えないすごい迫力だ。

 沢田のドスの効いた声が地響きのように拡がってゆくと、カツあげしようとしていた先輩達は蜘蛛の子を散らすようにあっという間にいなくなってしまった。たしかに沢田は色も黒く、身体もがっちりしていかにも喧嘩が強そうだなぁ、こいつに脅されるとさすがに3年生だってびびるんだろうなどと、俺は呑気に考えながら彼にふっと笑いかけた。

 「ありがとう」

 「あん?」

 「どうも、ありがとう」

 「なにが?」

 「あ、あの助けてくれて……」

 「誰を……」

 「え?あの……ぼく……」

 「高校生になってまで、僕なんて言ってんじゃねーよ」

 「は?」

 「むかつくんだよ、お前をみてると」

 どうして沢田にそんな事を言われなければ、ならないのかわからないうちに、俺は今度は沢田にがっちりと腕を捻り上げられ再びトイレの個室に連れ込まれた。

 いったい自分の身に何がおきているのか、何がなんだかさっぱりわからないまま、俺は沢田を見上げていた。だって今、確かに俺はこいつに窮地を救ってもらっていたよな?

 なのになんの前ぶれもなく、思いっきり鳩尾に拳をぶち込まれる。

 「う……っ」

 苦しい。こんな苦しいのは初めてかも。何がどうなってるのか?酷く混乱したまま息もできないでいると、徐にズボンを降ろされボクサーパンツまで手がかかる。

 「何?」

 沢田は俺の困惑など気にもとめずに、自分のするべき行為を淡々と進めてゆく……という風情で、俺はなんだかぼうっと彼がするのを他人事のように見つめていた。どうして助けてくれた彼がこんなことを? 思いきり良くボクサーパンツは下まで降ろされ、俺の大切な部分が寒そうに空気に晒される。

 「よせ……」

 情けないと思いながら、俺は思わずぐっと胸の奥がつまり瞳が熱くなって涙が溢れそうになる。

 それなのに沢田は俺のイチモツを見て確かに鼻で笑いやがった。

 「ふ……」

 ポケットからスローモーションのように勿体をつけて、俺に見せつけるように携帯を取り出す。 その上、携帯で俺のその恥ずかしい部分を撮ろうと構えている。カシャカシャとシャッターの落ちる 音に似せた電子音がトイレに響き渡る。

 「や、やめて……」

 「何がやめてだ。女じゃあるまいに、すかしてんじゃねーよ」

 俺は息も絶え絶えで返事もできない。

 「お前の顔もばっちり写ってるからな。よく覚えておけ」

 本当に何がなんだかさっぱりわからなかった。 沢田は俺を助けてくれたのではなかったのか?

 写真は消して欲しいと思ったがその時はまだ、沢田が俺を助けてはくれたが、たまたま虫の居所が悪かったに違いない……くらいにしか思っていなかった。

 BACK  WORK TOP NEXT