思い出を忘れたくて(晩秋の番外)

Get memories out of mind 2-2


 俺が夢中で海をスケッチしてる間に、気がつくと沢田の姿はどこにもなかった。

 暗い海に落ちる月。見上げると辺りは街灯がついているのに、なんと天の川がみえる。

 近くに大きな街の光がみえないからだろうか?俺はなんだか感動して胸にぐっと込上げてくるものがあった。 自分にもこんな感情があったなんて知らなかった。よくドラマや話では聞くが風景を見ただけで 胸が詰まるなんて……

 なんだか気恥ずかしい。

 浜風が頬に当たるとダウンを着ているのに身震いするほど寒かった。 立上がってチノパンツをパンパンとほろうと岩の向こうに人影が見える。

 「沢田?」

 俺は思わず声をかける。

 「誰だ?お前?」

 見ず知らずの男だった。目つきがきつくてなんか怖い。それにすごく身体の大きな奴だ。漁師ってみんなこんなにでかいんだろうか?俺はなぜかぞ〜〜っとした。

 「あ、俺……」

 俺がどぎまぎしてるといつのまに戻って来たのか声をかけてくれたのは沢田だった。全くびっくりさせんなよ。

 「俺の連れだ。下宿先の息子で同期なんだ」

 沢田がやってきて助け舟を出してくれる。腰に回した手さえなけりゃ良く来たと褒めてやりたいところだ。でも、連れってなんだよ、連れって……なんか変に誤解されたらどーすんだよ。しかも誤解じゃ無いから ごまかしようがないじゃないか!

 「沢田のじいさん、ICUから一般病棟に移ったんだって?」

 「あぁ、全く人騒がせなじじいだよ」

 どうやら沢田のおじいさんは持ち直したらしい。ちらっとでも不謹慎な事を考えた俺は心底ほっとする。

 「酒と煙草の飲み過ぎだ。若いつもりで……」

 「……」

 どうやら何か二人だけで解る話で盛り上がっているらしい。俺なんかすっかり蚊屋の外だ。

 俺は身体が心底冷えきり、ガチガチと震えていた。

 「ほらっ」

 そんな俺の様子に気付いて沢田が話を途中で中断すると俺に熱々の肉マンを放ってよこした。

 あぁ、生き返る、そっか沢田のやつ、これを買いに行ったのか……。

 おれは両手で挟むように持ち、そっと口許に持っていった。

 本当に暖かい……沢田もいいところもあるんだ、とかこんな田舎にもコンビニはあるんだな?とか妙なところで感心しながら寒さに耐え切れず沢田の家に向って歩き出す。

 それを見て沢田はそのまま俺の後を追って来た。沢田は薄いパーカー一枚しか着ていない。俺はダウン着てるのに……。お前は熊かよ。

 「いいのか?友達」

 「いいんだ」

 そういってにやりと笑う。だから笑うなって、まじに怖いよお前の笑顔……夢に出て来たらどうすんだよ。

 「なんだよ」

 「妬けるか?」

 「ば……っ!ばか言ってんじゃないよ」

 全く、ばっかじゃねーの?なんで俺が他の奴とはなしてるだけで妬かなきゃいけねーんだ?おれはあまりの事に拳をぐぐぐ〜〜っと握りしめた。

 部屋に戻ると俺は沢田に即行で犯られるのを覚悟したが、沢田は居間にいったままなかなか戻ってこない。俺は気がつくとぐっすりと沢田のベッドを占領して朝まで寝込んでいた。

 ふといつもの癖で隣に寝てるはずの沢田の温もりを捜すが、沢田は結局別の部屋で寝たらしい。  

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