思い出を忘れたくて

Get memories out of mind 13


 「預かっておく」

 「だめだ!そ、それは……」  

 それは、沢田をいっぱいスケッチしてあるスケッチブックなんだよっ! 俺は慌てて奪い取ろうとしたが、沢田にぐっと引っ張られて俺は踊場の向こうまで吹っ飛んだ。  

 「危ねーじゃねーかよ!」  

 東海林が間に入ってくれる。  

 その瞬間、かっと見開いた沢田の口と瞳はいつか中学の修学旅行でみた阿修羅像にそっくりだった。  

 どんなに怖くてもそのスケッチブックだけは沢田に見られたくない。  

 俺は慌てて縋り付こうとしたが、腰を打ったせいですぐにたちあがれねーのが情けない。沢田はわざと東海林に肩をぶつけるようにして歩み出す。  

 「ごめんね。古城クン……充ったら乱暴で……」  

 結菜ちゃんがまるで天使の様に優しく俺を起そうと手を差し出した。  

 沢田は振り返りもせず、「結菜、何やってる!さっさとこいや」とドスをきかせてから、立ち去っていく。  

 なんだよ、もうかまわねーんじゃなかったのかよ。  

 それに、それにあのスケッチブックは絶対見られたくない。っていうか見られたら困るんだ。  

 俺は必死に沢田の姿を捜す。チャイムが鳴ったが午後の授業どころじゃなかった。 A組の教室にもサッカー部の部室にもいなかった。俺はまさかと思いながら例の古い用具室のドアに手をかけた。   

 「誰だ……」  

 まさに地を這うような低い声。沢田……お前ゾンビの役で声優になれそうだぞ。嬉しくないだろうけど。  

 「僕……」  

 「入れ」  

 軍事裁判でも受けるように項垂れながら用具室に入る。  

 沢田はスケッチブックをめくっていたが、俺がドアを開けたのに気が付くと沢田と目があった。  

 不思議といつもより怖い表情じゃなかった。っていうかなんだか戸惑ったような不思議な表情だ。  

 「なんで俺なんか描いてるんだ?」  

 「ごめん……」   

 「別に謝れっていってんじゃねーよ。こっちにこいや」

  沢田は自分の隣をぽんぽんと叩いて場所を示す。  

 俺はそこに座って沢田の不思議な表情を思わずじっくりみつめてしまった。

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