思い出を忘れたくて

Get memories out of mind 12


 俺は土日と休んだだけで思ったより早く体調が回復した。結局学校は幸か不幸か休まなくて良かった訳だ……正直にいうといきたくなかった。行って沢田とばったり顔なんか合わせたくなかった。 だけど、お母さんがそんなずる休みを許すはずもなく……。

 ……食べ物には苦労したけど。え?なぜ?そりゃあ……ちぇっ俺にそんな事最後まで言わせんなよ。

 なるべく消化のいいものを喰ったし、ってかあんまり食欲もなくて 珍しく心配してくれたお母さんがプリンやヨーグルトばかり買ってくれたから助かったよ。

 そんなこんなでトイレも思った程大変な事にはならず、熱も下がると俺は熱に浮かされたように スケッチブックにデッサンしはじめた。

 殆どは俺の目に焼き付いたサッカーをする沢田の姿だった。不思議と覚えてるもので何枚も何枚も書き上げた。まあ、あれだけ飽きずに沢田の観察をしていたんだから、当然といえば当然かも知れない。ただ、なぜか一枚だけ俺は何度も書き直したスケッチがあった。


 『なんでそんな目で見るんだ?そんな縋るような目で見るなよ』


 そう言ったアイツの目の方がずっと切なそうに俺に何かを訴えていた。いったい何が言いたかったんだろう?あいつのあの表情が俺を酷く不安にさせる。

 だが、あいつのあの表情を描き込むうちに、俺の中で蟠っていた何かが少しだけ浄化されてゆく。

 これだから俺は描く事を止められない。

 普段はおちゃらけてる俺様だが、絵筆を持つと気が引き締まるって言うかマジになる。

 結菜ちゃんの顔は何も思い出せないんで描けそうにないが、沢田なら何枚でも描けそうな俺ってちょっと自分でもどうかと思うが。

 目は口程にモノを言うっていうけれど、アイツの瞳を思い出す度、何か勘違いしたくなる 俺ってやっぱりつくづく懲りないっていうか、御目出度い野郎だよな。


 月曜の朝、俺の気持ちみたいにどんよりした天気だ。驚いた事に教室に入るなり東海林がいきなり後ろから羽交い締めにして技をかけてくる。

 「おぉ〜古城!回復したみたいだな?」

 「や、やめろって!いてぇよ」

 東海林が俺の頭をぐりぐりとヘッドロックをかけながらこずく。俺はプロレスごっこは嫌いなの。お前も中坊じゃないんだからそーゆー幼い遊びはそろそろ卒業しろよ。

 ふと視線を感じて顔を上げると前の扉から沢田の姿が見えた。こっちを見ていたような気がしたのは多分勘違いだろう。 俺なんか、もう、かまってくれないらしいから……(苦笑)

 これで俺にも平穏な日々が戻ってくるんだな……。

 「古城ってさ。前から見たらまぁ、そこそこだけど、横顔は綺麗だよな。」

 「突然何いってやがるんだよ?男が綺麗って言われてよろこぶか!」

 俺をからかっているのだ。まぁ、東海林にならからかわれたって別にかまやしないけどさ。俺の方も好き放題いってるから。

 「それに最近妙に色っぽいんだよな。まさか初体験済ませちゃったとか」

 「うるせーよ」

 「おぉ〜その反応はイミシンだぞ!」

 こらっ!あんまりくっつくんじゃねーよ。暑苦しいんだよ! 俺達がじゃれあってるところに結菜ちゃんがひょこっと前のドアから顔を出した。

 「古城ク〜〜ン。モデルの話だけど……」

 あ……すっかりそのこと忘れていた。でも今は描けそうにない。

 「ごめん、やっぱり無理っぽい。時間もないし。高美祭が近くてさ。そっちの作品に力を 入れなくちゃいけないから」

 ところがなんてこったぁ〜いつの間にいたのかそこに沢田がやってきて口を挟む。

 「お前、結菜と約束したんだろ?ちゃんと守ったらどうだ」

 そういってなぜか、東海林を睨む。

 東海林も『訳がわからん……俺か?』という感じで周りを見渡した。

 東海林とも何かあったのかな?俺には関係ないけどさ。

 「いいのよ、いいの」

 結菜ちゃんは両手を振って焦っていたが、

 「描いてもらいたいんだろ?スケッチでいいから描け!」

 こわ〜〜っ!そんな睨まなくてもスケッチくらい描くってば……。

 そういう訳で昼休みに2人を描く事になった俺は複雑な気分だった。

 昼食もどこに入ったか解らない状態で、俺はスケッチブックを手に二人がくるのを待ち構えた。背景はステンドガラスのある踊場がいいというので、東海林が人員整理をかって出てくれた。やっぱり持つべきものは友達だ。

 噂を聞いて結構な野次馬が集まってくる。

 沢田はやってくるとすぐに結菜ちゃんの腰を掴むとぐっと自分の方に引き寄せる。俺はドキッとして心臓がワンサイズ縮まった気がした。

 だが、結菜ちゃんは馴れてるのか嫌がりもしない。僕の方を嬉しそうににっこりと微笑んでいる。 沢田もこっちを見ているが口角が上がっているのに目は笑っていなかった。

 怖っ!

 睨む沢田が怖くて僕は思わず小声で助言した。

 「二人で見つめあったらどうかな?その方が構図的に絵になるし……これじゃあ 記念写真みたいだから……」

 「これでいい。このまま、さっさと描け!」

 沢田が怖いらしく誰もこの踊場を通り抜けようとうつわものはいない。俺はなるべく早く描かなくちゃと焦っていた。それでも土日に何枚も沢田を描いていた事と、結菜ちゃんの整った描きやすい顔のおかげで 10分程でだいたいのスケッチが終わる。

 東海林が肩ごしに覗き込んで「すげ〜うまいな」とため息を漏らした。

 「今度、俺を描いてくれよ」

 するといつの間にやってきたのか沢田がスケッチブックを取り上げて「だめだ」と東海林を睨み付けた。

 俺はただ、呆然としていた。言う事は聞いたじゃないか。なのに、何をそんなに沢田はいらついているんだろう?

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