思い出を忘れたくて

Get memories out of mind


 朝の8時15分……うそ……学校は40分までだ。

 「あぁ〜〜もう、こんな時間っぜってぇ〜まにあわね〜」

 俺は大声で叫びながら居間に駆け降りる。

 「ちゃんと起したわよ」

 お母さんはこっちを振り向きもせず、冷たく言い放った。 覚えたばかりのパソコンに夢中なのだ。

 「ね〜、頼む、送っていってよ」

 一応可愛く頼んでみる。

 「あんたが寝坊したんでしょ?知らないわよ、そんなの」

 冷めて〜せめて振り返って言えよ?あん?

 「ほんとに、ほんとに遅れちゃうってば」

 もう一度頼んでみる。たった一人の息子だろ?頼むよおい!

 完全無視、くそ〜〜。

 「俺が遅れると他のメンバーにも迷惑かかるんだよ。同じグループのさ」

 それはあながち嘘ではない。もうすぐ体育祭なのだ。 母はしぶしぶ立上がった。

 「んもう、仕方ないわね。あんたなんて遅れてもいいけど他の人に迷惑かかるなら」

 ふ〜助かった。俺はキューブの後部座席に深々と身を沈めた。 まぁ、キューブのシートじゃ深々というほどでもないんだが、まぁ気持ちね気持ち。

 「ね、ちょっと見て。あれってあんたと同じ制服じゃない?あの子も遅れるんじゃないの?」

 たしかにこの時間にここを歩いてる俺と同じ制服のやつは間違いなく遅刻だろうが、俺はそいつをみて真っ青になった。

 あ、れ、は……さわだ、みつる……沢田充

 同じ高校のサッカー部のエースだ。その上、Aクラスといって超進学コースなんだ。 おれも一応Bクラスだけど、レベルが違う。

 目立つ顔だちの女にモテル如才ないやつ。 それが沢田だった。本当は美術部の俺とはかけらも接点がなかったのだ。ついこの前までは。 あぁ、なんであいつがよりにもよってこんな時間にこんな場所をもっともタイミング悪い 時間に歩いていやがるんだ。

 「あの子も遅れるわ、送っていってあげましょ」

 「いーんだよ。あいつは」

 「なにが『いいんだよ、あいつは』よ。これは私の車なんだから 誰を乗せるかは私に決定権があるの。嫌ならあんたが降りなさい」

 ひで〜これでも可愛い一人息子の母親かよ。

 「なんでだよ、俺が嫌なんだよ、嫌いなんだよ。ぜって〜やだ」

 「わがまま言うんじゃないわ」

 わがままじゃねーわがままじゃねーんだ。

 そいつは、

 そいつは俺に……。

 いえね〜

 お母さんだけはいえね〜よ。

 あんなこと俺があいつに強姦まがいの 事をされたなんて。

 俺はひたすら祈った。沢田がお母さんの誘いを断るのを……。

 「遅れるでしょ?乗っていったら?」

 「あ、すいません。じゃ、遠慮なく……失礼します」

 沢田は平然とした顔でのってきやがった。 俺は何も悪い事をしてないのに俺はつい沢田から目を逸らして俯いてしまう。

 そんな俺をみて沢田は余裕の笑みでこっちをちらりと流しみた。 おれはただ、下唇をぐっと噛み締めながら、ドアウィンドウごしに流れる雲を見ていた。

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