思い出を忘れたくて(秋の番外)

Get memories out of mind 2


 自分でも良く解らないまま、俺、古城拓馬は北の漁港に向うタクシーに揺られている。 今年の11月の最後の連休は学校の創立記念日が25日だった事もあって、4連休なのだ。

 こんなすてきな連休に俺は何が悲しくて、沢田の故郷にやってこなければいけないのだろう?

 記憶を辿れば数日前に遡る。

 俺の家に何時の間にか同居してる下宿人の沢田充の実家から電話が入った。 なんでも沢田の祖父が入院したらしい。すでに70才を過ぎた高齢で、色々な病気を併発してる為、 危ない状況だという。

 俺は沢田のおじいさんは本当に気の毒だと思ったが、不謹慎な事に少しだけほっとしていた。

 なぜって自称俺の恋人を気取る沢田ときたら、三日と開けず身体を求めてくるのだ。

 俺はソープ嬢じゃねーちゅーの!

 若いって言ったって限度があるだろう?

 言いたくはねーけど沢田ときたら超絶倫野郎なのだ。俺がもう嫌だと半べそをかくまで やり続けるのだ。

 絶対、こいつAV男優になれるぞ!

 あぁ……このままだと俺は若い身空で肛門科のお世話にならなきゃいけねーかもしれねー(号泣)

 そんな訳で沢田が故郷の某港町に帰郷すると聞いたとたん、弛んだ俺の頬は間違い無いなく沢田に見られていたに違い無い。

 無論、俺の可愛い思惑は何事にも卒のない沢田にはすっかりお見通しだったわけで……。当然、俺の様子を見て沢田のやつ両親に何か吹き込んだらしい。

 ただ同然で下宿させてもらってすまないからと、沢田の両親はいつの間にか俺の分も飛行機のチケットを送ってくださって沢田の家に御招待される事になったのだ。うううぅう。

 はっきりいってそんなのありがた迷惑以外のなにものでもない。

 「お母さんが行けば?」

 俺は思わずそう言った。

 「行けるわけないでしょう?仕事があるのよ。せっかくの御好意なんだし、あんたは他に予定がないじゃないの?行きなさい!行かないと当分、お小遣いを無しにするわよ」

 息子の貞操(もうすでに欠片ものこっちゃいないけどさ)の危機もしらねーでなんて呑気な母親だ!

 それに沢田の『もし付いてこなかったらどうなるかわかってるな?』みたいな瞳に睨まれて俺はこうして 空港に迎えに来たタクシーに揺られているわけだ。

 それにしても、今年はまだまだ暖かい東京と違って北海道はもう秋を通り越して真冬みたいなものだ。

 山の紅葉はすでに終わり、針葉樹だけがひっそりとその葉を携える。まるで俺の心の中のように寒々としている。

 こんなにも遠くに来てしまったと実感せざるを得ない状況に俺は絶望感に苛まれた。

 ただ、ひとつの希望は、沢田の両親が気をきかせてくれて俺に別の部屋を用意してくれることだった。

 だが、沢田の家に着いて沢田の部屋にそのまま案内される。やっぱり同じ部屋で寝るのか……沢田の家族を紹介されたり、思いのほか広い沢田邸を案内されながらますます俺はどんと暗い気分に突入する。

 俺は挨拶しながら間違い無く笑顔が強張っていたに違い無い。

 「古城くんって今、流行りのジャニーズ系の顔だちだね。なかなか可愛いじゃないか?女の子だったら充のお嫁に貰うのにね」

 そういってにやりと笑ったのは沢田のお母さんだ。なかなかの美人だが沢田そっくりで口は悪そうだし、もう一方の父親は無口なオヤジっていう感じで、すごく筋肉質で沢田以上に怖そうだ。

 「冷蔵庫とかにあるものは勝手に食って良いからな。遠慮しないで何でも食え!」

 低い声でそう言われると怒られたわけでもないのにびくんとしてしまう。

 俺達は沢田の部屋に荷物を置くとさっそく海に出た。

 大平洋の荒い海。どちらかというと暗い色の海の色が沢田に妙に似合っている。

 なぜか沢田は海に来ると急に無口になった。もしかしたら、入院中のおじいさんの心配をしてるのかもしれない。病院はここから車で20分くらいの場所にあるらしい。明日にでも見舞いにいく事になっているらしいが、きっとすぐにでもおじいさんの元に飛んでいきたいのかもしれない。だが、俺達が空港に着いた時にはすでに面会時間は過ぎていた。

 一緒にいて沢田が俺に何もしないなんて久しぶりだ。

 それにしても寒い。浜風に震える俺に沢田はダウンジャケットを持って来てそっと後ろから羽織らせてくれる。そんな沢田の優しさに俺は妙に照れて礼も言いそびれてしまった。

 なんだか気まずく手持ち無沙汰だったので俺は小さなスケッチブックに沢田の印象にそっくりなこの無骨な海を描き始めていた。  

 NEXT  WORK  TOP